京大生チャレンジコンテスト(SPEC:Student Projects for Enhancing Creativity)

山極総長による寸評

①パプアニューギニア未調査エリアへの探検

 本当に“未知”のものは何なのか?自分の得た情報が、本当に今まで誰も手にしたことがない情報なのかを確かめることは難しいが、自らの感性を大事にして、知り得た情報を精査することが必要だ。大切なのは、過酷な環境の中、どんな幸福を感じてそこに住み続けているかを考えること。我々がもう戻ることができない時代に近い環境で生きる彼らが何を感じているのか、しっかりと見てきてほしい。

 

②iGEM2019で勝てるチームを戦略的につくる

 2018年大会の結果がシルバーでショックを受けているようだが、成長の糧になるはずだ。研究の第一歩は「自分はこれを知らない」と知ることだから。科学において成果を出すために重要なのは、いかに良い“問い”を立てられるかだが、iGEMは毎年違うテーマで挑まなければならないためなおさらだ。実は、分野の違う人たちにこそ、我々にはない発想が秘められていることがある。つねに謙虚な気持ちで多くの人の意見を聞き、内に落とし込み、自分たちにしかできない発想へと練り上げていってほしい。

 

③Everyone can be a model

 「日本の美の概念をぶっ壊す」という言葉はすばらしいが、どうやって壊すのかが難しい。 手放しで褒められるのではなく正しいフィードバック、例えば「こういう体形にはこの洋服は似合うが、これは似合わない」と言われたほうが自己肯定感が増すという話だが、その通りだろう。良い集まりをつくり、意見を出し合いながら、一人ひとりが自己肯定感を持てるようなファッションを生み出していくことを期待している。

 

④Kistory ~思いを込めて次世代へ~

 洋服は自分のものであって古くなれば棄てるが、着物は世代を超え、洗い張り仕立て直しをしながら代々受け継がれている。着物だけはなぜか特別だ。そういう着物を、思い入れのある人から若い人へ受け継ぐ活動はすばらしいと思う。最近は着物を着て街歩きをする人も増えたが、新しい着方にはいまだネガティブな視線が向けられる。しかし、能や歌舞伎という伝統芸能の中で新しい流行が生まれてきた。単に、保存し受け継ぐだけでなく、連綿と続いてきた伝統の上に何か新しいことを創造する、といったことにもトライしてはどうか。

 

⑤“私たち”の多文化共生~若年世代の「場」をつくる~

 現代の問題にフィットしたテーマだが、今一度“寛容”という言葉を見直す必要がある。他国の文化の人たちを、その文化の装いを取り払ったうえで自国の文化に受け入れることが寛容だと捉えられているが、本当にそうだろうか。自らの文化に則って振舞うのを許すことが、本当の寛容ではないだろうか。私は、さまざまな文化の人たちが集まって自分たちの文化にはないものを発見し、新しい共生文化圏をつくっていくことが多文化共生だと考えている。この取り組みでも、「互いの文化にはない文化を生み出す」ことに注力してほしい。

 

⑥食品ロスが削減できる野菜の切り方や調理法を探る

 通常は生ごみとなったものをどう利用するかを考えるものだが、調理で野菜の過剰除去を減らそうという発想自体がおもしろい。人間の欲望は贅沢に向かうものであり、料理人の腕もいかに贅沢に見せるかに技がある。このマインドセットをどう方向転換できるかが問題だろう。過剰除去という言葉には「不要なものを捨てる」という意味があるが、捨てている部分にこそおいしさがある、ほかの部分にはない希少な味、栄養、使い方が潜んでいるという発想をしたほうが、調理する立場の人には訴求力が高いかもしれない。