京大生チャレンジコンテスト
(SPEC:Student Projects for Enhancing Creativity)

京大生チャレンジコンテスト2017 京都大学学生チャレンジコンテスト
学年は申請当時

脳でオーロラは聞こえるか

申請団体:オーロラの音に関する共同研究チーム
代表者:理学部2回生 藤田 菜穂

<2019.3.6 更新>

本研究はオーロラから音が聞こえる未解決のメカニズムについて、新しいモデルを提案することを目的としています。
我々は現在、助成金を元に、
(1)オーロラで生じた電磁波が脳に作用して音が聞こえていると錯覚している
(2)オーロラで生じた電磁波が地表付近で音波に変換されている
という2つの仮説を並行して検証しています。

まず(1)の検証について報告します。
我々は「クリプトクロム2(CRY2)」が脳で電磁波を受容している可能性があると考えています。そこで、前回の報告で紹介させていただいたアッセイ系が機能するかどうかの確認と、培養細胞に磁場を照射する実験装置の組み立てを行いました。
1つ目のLacZアッセイの確認では、実際にシュードタイプウイルスの作製を行い、そのウイルス粒子を非感染細胞に接種して細胞核が青く染色されるかどうかを検証しました。結果は予想通り細胞の核が青く染色され、ウイルス粒子の形成と感染を確認することができました。
2つ目のルシフェラーゼアッセイの確認では、まずルシフェラーゼ遺伝子をトランスフェクションにより導入した細胞を作製しました。この細胞にさらにCRY2をトランスフェクションして発現させた細胞を作製し、その細胞の発光量を測定してCRY2非発現細胞と比較しました。しかし、これらの細胞間で発光量の差は見られませんでした。ルシフェラーゼ遺伝子のプロモーターを現在のものから別のものに変更することで改善の余地があると考えてはいますが、我々はこのアッセイ系を改良する代わりにウェスタンブロット法を磁場応答の評価方法として採用することにしました。ウェスタンブロット法はタンパク質の量を測定するために広く用いられる方法で、磁場の照射によるCRY2のタンパク量や化学修飾の変化を検証できると期待できます。

アッセイ系の確立と並行して培養細胞に磁場を照射する実験装置の組み立てを行いました(図)。ヒトの細胞を培養するためには温度を37℃、CO2 濃度を5%に維持する必要があります。この環境を維持する装置はインキュベーターと呼ばれます。今回1台のインキュベーターを借りることができました。また、電池式の磁場発生装置もお借りすることができたのでインキュベーター内に設置しました。先行研究から分子が磁場に応答するためには青色光が必要であることが示唆されているため、単色発光ダイオードを購入しボタン電池に接続してこれもインキュベーターに設置しました。これら一式の装置の動作確認も完了しました。
今後は上述のアッセイ系と実験装置を使用し、CRY2が磁場に応答するかどうか、応答した場合にどのようなシグナル伝達が行われるかを解明していきたいと考えています。
次いで(2)の検証について報告します。
前回の報告の通り、私たちの録音はライネ氏のデータと異なる原理による音である可能性が高いという結果が得られていました。そこでこの結果をもとにライネ氏に再度相談したところ、やはりライネ氏の録音と同じ発生原理による音である可能性は低いという結論に至りました。ライネ氏の録音がオーロラの音であるという確証はないため、私たちの録音がオーロラの音であるという可能性が否定されたわけではありません。
ただし、私たちの録音が本当にオーロラの音かどうかを検証するのは、そもそもオーロラの音だと確証のあるデータが存在しないため困難です。引き続きオーロラの音に関する情報の収集に努めようと考えています。

<2018.10.21 更新>

本研究はオーロラから音が聞こえる未解決のメカニズムについて、新しいモデルを提案することを目的としています。
我々は現在、助成金を元に、
(1)オーロラで生じた電磁波が脳に作用して音が聞こえていると錯覚している
(2)オーロラで生じた電磁波が地表付近で音波に変換されている
という2つの仮説を並行して検証しています。

まず(1)の検証について報告します。
我々は「クリプトクロム2(CRY2)」が脳で電磁波を受容している可能性があると考えています。そこでクリプトクロムの磁場受容能を評価するためのアッセイ系を2つ考案しました。

1つ目はウイルス量を評価するLacZアッセイです。まず、LacZ遺伝子をもつTeLCEB6細胞にウイルスのEnv遺伝子をトランスフェクションで導入するとシュードタイプウイルスが作製できます(図)。このウイルスが細胞に感染するとLacZ遺伝子が細胞核に放出されるため、細胞にLacZの基質であるX-galを加えると細胞の核は青く染色されます。このアッセイ系によって細胞のウイルス産生量やウイルスの感染率を調べることができることを確認しました。これを応用することで、磁場による細胞の環境の変化を検出しようと考えています。
2つ目はルシフェラーゼアッセイです。これはクリプトクロムが遺伝子発現調節機能を持つことに注目しその活性変化を検出するためのものです。我々はこの実験のために遺伝子発現を促進するプロモーターの下流にLuc遺伝子を付加したプラスミドを作製しました。このプラスミドを細胞にトランスフェクションで導入すると、細胞はルシフェラーゼを産生します。ルシフェラーゼの量は、ルシフェリンを加えてその発光強度を測定することで評価できます。我々は現在、磁場によるクリプトクロムの活性の変化をルシフェラーゼの産生量で検出するための実験系の確立を目指しています。

次いで(2)の検証について報告します。
フィンランドのオーロラの音の研究者・ライネ氏がオーロラの音だと主張している音声データがあります。我々がアラスカ滞在中、11年ぶりとなる大規模なフレアが発生するほど太陽活動が活発だったこともあってか、これとよく似た音声データが得られました。我々の録音がライネ氏の録音とよく似て聞こえる点に着目し、音声解析ソフトPRAATを用いて解析を行いました。実験費用はこのPRAATで解析するにあたり、さまざまな破裂音のサンプルをとるための材料購入に用いました。加えて、音声解析の専門家である京都大学情報学研究科の研究室を訪ね解析を行っていただき、議論した結果、私たちの録音はライネ氏のデータと異なる原理による音である可能性が高いという結果を得ました。

今後はこの結果をもとに、ライネ氏に再度相談し、オーロラの音の原理究明を続けていきます。また、クリプトクロムの磁場応答性を調べるための磁場照射装置をつくる予定です。

<2018.5.21 更新>


本研究はオーロラから音が聞こえる未解決のメカニズムについて、新しいモデルを提案することを目的としています。
我々は現在、いただいた助成金を元に、
(1)オーロラで生じた電磁波が脳に作用して音が聞こえていると錯覚している
(2)オーロラで生じた電磁波が地表付近で音波に変換されている
という2つの仮説を並行して検証しています。


まず(1)の検証について報告します。
我々は脳内分子である「クリプトクロム2(CRY2)」が脳で電磁波を受容している可能性があると考え、ヒトに近いとされるニホンザルの脳でCry2が発現しているかどうかをRT-PCR法を用いて調べました。その結果、ニホンザルの脳でCry2の発現が確認されたことから(Fig.)、ヒトでも同様に脳でCRY2が発現していると考えられます。この結果は、CRY2によって脳で電磁波を受容しているとする我々の仮説と矛盾しません。

次いで(2)の検証について報告します。 フィンランドの研究者がオーロラの音だと主張している音声データがあります。
我々がアラスカ滞在中、11年ぶりとなる大規模なフレアが発生するほど太陽活動が活発だったこともあってか、これとよく似た音声データが得られました。そこで、この音が本当にオーロラに由来するものかどうかを確かめるための解析を進めました。
まず、電磁波によって放電が起こっている可能性を考え、観測した電磁波データを解析しました。結果、当該期間では地上付近での放電を誘発するほどのエネルギーの電磁波は含まれていないことが分かりました。もし、我々が録音した音とフィンランドの研究者の音声データの波形の性質が十分似ていて、オーロラに由来することが示された場合、放電とは別の原理で発生している可能性が高くなると結論づけました。

今後はCRY2が電磁波に応答するかどうかを検証するためのアッセイ系の確立と、オーロラの録音だと主張されている音声データと我々が録音した音声データの波形比較による解析を行う予定です。

合成生物学の学生コンテストで世界の頂点に立つ

申請団体:iGEM Kyoto 2018
代表者:薬学部2回生 吉本 昂希

<2019.2.28 更新>

おかげさまで無事に2018年度の大会に参加することできました。結果は残念ながら銀賞にとどまり、悲願のファイナリスト入りは果たせませんでしたが、この機会で得られた反省点や今後の抱負を報告いたします。


大会は2018年10月24日から28日まで、アメリカのボストンにあるHynes Convention Centerで開催されました。今年は42ヵ国から340チーム、5,790名が参加し、その規模は年々大きくなっています。




私たちのチームからは、大会への個人参加費や渡航費などの自己負担の面から全メンバーの参加はかなわず、4名がプレゼンテーションやポスター発表に挑みました。

全チームのプレゼンテーションとポスター発表が終わったのちに結果発表が行われ、私たちは銀賞に終わりました。後日、大会本部から送られた各チームへの総評から、次のような反省点が得られました。
・実験計画期間に時間をかけすぎたため実験期間が短くなり、サンプル数が少ないままデータを取ることになってしまった。
・モデリング解析において、予想以上にトラブルシューティングに時間がかかってしまい、審査までに成果を十分に示せなかった。

また、出席したメンバーの帰国後にチームで反省会を行い、これらの他に「技術的なサポートをより得やすくするために、組織体制基盤を見直す必要がある」ということも改善点として挙げられました。

現在は、以上の反省を生かし、実験計画期間や実験期間などのスケジューリングについて、より入念に準備しようと考えています。また、次年度のリベンジを果たすために新プロジェクトに向けての勉強会や新たなメンバーの勧誘、組織体制の見直し、次年度に向けた資金集めに尽力しています。

今年度は目標としていたファイナリスト入りを実現できませんでしたが、雪辱を果たすべく、反省を生かし猛進していく所存です。今年度はご支援いただき、本当にありがうございました。

<2018.10.18 更新>

5月にご報告した通り、2018年度大会に向けて合成生物学的な手法で脱塩システムにアプローチするため、多くの専門家の意見を聞きながら実験計画をデザインし、それに基づいて実験を行いました。

実験計画の大まかな流れは、遺伝子操作がしやすい酵母に対して、Na+を細胞外へ排出する輸送タンパクを破壊したり、細胞内へ取り込む輸送タンパクを導入したりするというものです。

結果としては自分たちで作成した酵母のΔENA1,2,5ΔNHA1変異株にSseNHX1という塩生植物由来のタンパク質を導入することで、細胞内へのNa+取り込み量を野生株でSseNHX1を組み込まない場合より6倍に増加させることに成功しました。

詳しくはこちらのリンクをご覧ください。 http://2018.igem.org/Team:Kyoto この結果を携えて、10月末の大会で頂点に立つことに挑みます。

<2018.5.21 更新>

●これまでの活動 2017年11月の採択発表会にて、2017年度の大会の様子について少しご紹介しましたが、その後、無事に発表を終え、京都大学チームは銀メダルを受賞することができました。ご協力いただいた皆様には感謝申し上げます。
http://2017.igem.org/Team:Kyoto

帰国後、自分たちの活動内容や結果をより多くの方に知ってもらうため、京都大学の生命科学研究科主催の国際学生セミナー、高等教育院iCeMSのラーニングラウンジに参加しました。英語でのプレゼン技術を磨くことも目的として登壇したのですが、後者の内容は京都大学よりYouTubeにアップされる予定なので、興味があればご覧ください。
https://www.icems.kyoto-u.ac.jp/ja/community/lounge/

●2018年のiGEM大会に向けて
2018年2月に2018年度の大会参加費として4500USD支払わなければなりませんでしたが、ご支援いただいた皆様のお陰で支払いを完了することができ、無事、大会出場が決まりました。重ねてお礼申し上げます。

さて、2017年11月の採択発表会では、私たちはiGEMの大会に出場し、「頂点を取るため」のプロジェクトの一案として「IBD治療薬開発」に取り組む可能性を示しました。しかし、2017年の大会後、活動を本格化させていくうちに、「このプロジェクト内容に精通するメンバーが大学の教育課程のため、予定よりも関わることができなくなったこと」や「ヒト細胞を扱う設備や研究室の場所、協力者を確保するのが難しかったこと」など、学部生の立場上解決困難な問題が複数生じました。
これらの問題を鑑みると、このプロジェクトで「大会で頂点を取る」のは困難であると考えて、内容を変更する決断をしました。総長を含め上記のプロジェクトにご期待くださった皆様には添えない形になってしまい申し訳ありません。

そして、2017年12月、2018年4月に新たに迎え入れたメンバーとともに議論を重ね、自分たちの個性や興味がもっとも活かせるプロジェクトのほうが目標に近づけるとの判断のもとで再考し、「脱塩システムを生物学的にアプローチする」というテーマを立ち上げました。従来の化学的手法とは異なり、消費電力が抑えられる可能性、拡張の仕方によってはイオン組成を自由に選択できるというメリットを生み出せないかなどの可能性を探っています。

2018年のiGEM Kyotoのホームページを更新しました。
https://igemkyoto.github.io/

医療倫理に関する対話型フィールド学習の開発

申請団体:京都大学医学教育を考える学生の会(KS-CoM)
代表者:医学部3回生 外山 尚吾

<2019.2.27 更新>

1年間を通じて扱ったテーマは「死生学」と「戦争と医学」の2つでした。 法学部の学生3名、医学部の学生4名、のべ7名が勉強会およびフィールドワークに参加しました。

「死生学」における小テーマは「死生観」「代理母」「安楽死」の3つでした。
前回の進捗報告において述べたように、「自分ごとに置き換えること」、「事例ベースで議論を開始すること」が、異分野の学生がともに議論をするために必要な鍵なのではないかという仮説にたどり着きました。

そして秋以降、「戦争と医学」という新たなテーマで勉強会を開始しました。
具体的には、『エルサレムのアイヒマン』という映画や遠藤周作の小説『海と毒薬』などを題材に、「自分ごとに置き換えること」、「事例ベースで議論を開始すること」の2点をもとに議論していきました。 しかしながら、ディスカッションおよびその手法に対するリフレクションを繰り返すうちに、 その2点についても疑問が生じるようになりました。

次に、「事例ベース」は、例えば安楽死などの問題ならば架空の事例に基づいて考えることができますが、歴史的事例がテーマになると、「本当のところは分からないが」や「このあたりは歴史的解釈の分かれるところで」などと事実関係が気になってしまい、 もちろんそれも重要ではありますが、本企画の趣旨である「“ゆらぐ”価値観についてゼロベースで考える」ためには、うまく適さないと感じることが多々ありました。
これは歴史的な事項は扱うべきではないということではなく、歴史的事例と現在の倫理課題とでは議論の仕方に異なる工夫が必要である、という可能性を示唆していると解釈しています。

SPECを通じていただいた助成金は、参考資料の購入やフィールドワークの旅費等で使用しましたが、 まだ残っている分をもとに、来年度以降も勉強会を継続し、上記に挙げた問題点について考え続けていきたいと思います。次回扱うテーマは「ハンセン病」の予定です。
最終的な目標としては、勉強会の活動報告として論文を作成し、学会誌に投稿する予定です。acceptされた際にはまた何かの形でご報告したいと考えています。

もしご興味ある方がいれば、引き続き参加者を募集していますので、Facebookで「外山尚吾」と検索してコンタクトしていただけると幸いです。

<2018.10.7 更新>

引き続き、学際的なメンバーで繰り返し勉強会を行っています。

「死生学」というテーマで夏まで続けてきました。毎回、議事録を見返しながら、議論が進んだところと止まったところを分析し、学習法の開発に向けて何が問題だったのかを明らかにしています。

一般化するにはまだまだ難しい段階ですが、試行錯誤を重ねながら、議論を進めるうえで有用ではないかと考えられるポイントを仮説として抽出している段階です。

1つ目は、「『自分ごと』に置き換えて考える」ということです。
ごく客観的に議論を進めようとすると、どうしても誰かの意見をなぞるだけになったり、誰もが同意できる一般論に終始したりしてしまうことがありました。 そこから、「自分だったらどうするか」という問いを起点に考えてみると、新たな発見がいくつもありました。例えば代表の外山なら医学部の学生として、 あるいは他ならぬ「私」として、どのように考えるかに思考を馳せると、自分が本で読んだ知識をもとに支持していたはずの意見と食い違う、という経験に遭遇しました。 まさに「ゆらぎ」を感じた瞬間でした。 これからはさらに踏み込んで「ゆらぎ」がなぜ、どのように、生じるのか、 という観点から考えることで、我々が倫理的側面を含む問題に直面した時にどう振る舞うべきかという点に示唆を与え得るのではないかと考えています。

2つ目は、1つ目と重なる点もありますが、「事例ベースで議論を開始すること」です。
最初、安楽死の勉強会を行った時は、議論に際して必要な倫理学の学説を概観し、 また、現在の安楽死の法的状況を整理したうえで、議論を始めようと思ったのですが、 なかなか議論が盛んに行われませんでした。そこで次の機会には改善し、詳細な知識などを吸収する前に、まず実際に過去にあった事例を挙げてディスカッションをし、 その後、自分の考えが先人たちのどのような議論と一致し、あるいは異なるのか、と振り返るという形をとることにしました。 そうすることによって、より自由な発言が促進され、さらに、その後の知識の吸収もスムーズになると感じました。今後は、この方法が他のテーマでも有用なのか吟味し、考察を深めていく予定です。

今後の具体的な活動としては、10月上旬に「戦争と医学」というテーマで勉強会を進めます。題材として小説『海と毒薬』や映画『ハンナ・アーレント』を使用しディスカッションしていく予定です。 さらに11月下旬には、ハルビンにてフィールドワークを行う予定です。

追記
関西近郊の大学生に向けてのメッセージです。特に現メンバーである医学部・法学部“以外”の学生の参加をお待ちしています。興味のある方はフェイスブックで「外山尚吾」と検索してご連絡くださるようお願いします。

<2018.5.13 更新>

2017年10月に採択されてから今年の3月にかけて、 医学部、法学部、工学部、農学部という多様な分野から集まった学生17名でワーキング・グループを形成しました。


それから5月現在にかけて、最初のテーマを「死生観」に設定し、勉強会を3回開催しました。

勉強会に参加する我々自身の学びも大切なのですが、本企画においては「学習法の開発」に重きを置いているため、勉強会ごとにメタ的な視点で「どのような問いが効果的であったか」、「どのような情報共有が必要だったか」を検討し、良かった点や悪かった点についてフィードバックを行っています。
中長期的な目線では、「学習法の評価法の構造化→学習法の構造化」という段階を踏んでいきたいと思っています。座学のあとは、かねてからの計画どおり、フィールドワークも実施する予定です。

他学部の学生との「対話」は非常に刺激的で学ぶところが多いです。今は始まったばかりで手探り状態ですが、 これから少しずつ形にしていければと思っています。今後とも応援していただけますと幸いです。またご報告させていただきます。

食と農を取り戻すためのムーブメントを紹介


申請者:農学研究科博士後期課程1回生 山本 奈美

<2019.3.8 更新>

2018年11月下旬、国際シンポジウム「モザンビーク・ブラジル・日本3カ国民衆会議」が東京で開催され、 3カ国の「⾷と農」の実践者たちが集い、各地域の食と農の現状、課題、そしてオルタナティブについて共有し合う機会がもたれました。日本から行くにはとても遠いブラジルとモザンビークの小農たちが集うまたとない機会。国際会議に参加し、彼らの声を取材しました。

今、小規模農業や家族農業に注目が集まっています。国連は、2019年から10年間を、「家族農業の10年」と定めました。昨2018年12月、国連において、「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)」が賛成多数で可決されました。家族農業は世界の食料の約8割の生産を担っているとされています。 さらに小規模農業は、世界の耕作地の25~30%を耕しているに過ぎないのですが、世界の人々が消費する食料の50~70%の生産を担っています。 このことは、世界の人々の食卓にとって、すなわち、食の安全や持続可能な未来にとって、小規模農業の役割がとても重要であることを示しています。

そんな世界の動きの中、ブラジルは小規模農家による運動やアグロエコロジー(生態系に即した農業)運動が盛んなことで知られています。 また、運動が自治体レベルだけでなく国レベルの政策を動かしたことから、世界の注目を浴びている国です。
例えばブラジルでは、アグロエコロジーと有機農業推進政策が国レベルで導入され、全国の5,300の自治体が給食の食材の少なくとも30%を小規模農家から調達するための支援が行われました。 その結果、2016年までに30%を達成した自治体は40%にものぼり、そのうちのいくつかは100%を達成しました。 4,700万人の小学生・幼稚園児が食べる日々の給食の食材の30%が、4,300万人の小規模農家によって生産された農産物であったのです。 なお、ブラジルでは学校給食は国費でまかなわれています。公共調達で小規模農業を支援する、貧困家庭の子どもたちの栄養状況を改善する、食の主権と食の安全保障の実践化、という一石三鳥ともいえるブラジルの取り組みは、 2018年に「未来の政策賞(Future Policy Award)」(World Future Council, FAO, IFOAMが共催)の銀賞を受賞しました。

一方でブラジルは、工業的に生産された食料の輸出国でもあります。 アマゾンやセラードの地域で広大な土地が大豆生産地へと変貌させられ、豊かな生態系が日々失われています。生態系でなく人々の暮らしも奪うことになった「セラードを大豆産地へ転換する」プロセスを後押ししたプロジェクトには、 1970~1980年代のJICA(日本国際協力機構)による開発プロジェクト「PRODECER」も含まれます。私たちの税金がもたらした結末は、知られるべき事実です。

さらに今、同様のプロジェクトがモザンビークでも導入されようとしています。「プロサバンナ事業」と呼ばれる日本のODA(政府開発援助)によるプロジェクトでは、 モザンビークの小規模農業は低投入で生産性が低く、大規模な工業的農業に転換すべきだと主張していますが、当の農民たちは反対しています。モザンビーク最大の農民組織である農民連合(UNAC)は、「食料主権に基づいて、小農が主体でアグロエコロジー的生産モデルへの強いコミットメントを継続する。 このモデルは、すべての側面で持続可能性を考慮し、実践において自然に寄り添ったものである」と宣言しました。 UNAC前代表のマフィゴさんは、「私はここで何十年も土を耕してきた。この土地に何が合うのか、自分たちが何を栽培し、何を食べたいのかは我々が一番よく知っている。だからまず我々に何が必要かを聞いてほしい」と語りました。人口の7割が農村に住み、労働人口の8割が自給的農業を営んでいるモザンビークの農民たちは、小規模で自然環境に寄り添った(破壊しない)アグロエコロジー型農業を選択しているのです。 モザンビークで人々の望む暮らしと幸せを奪うために日本の私たちの税金が使われていることに気がついてほしい、と州農民連合の代表のコスタさんは語ります。

ブラジルとモザンビークの人びとから伺ったお話は、「開発援助」の名の下に「開発される人々」をつくり出し、巨額の税金を投入して、現地の人々とがまったく望んでいない大規模な工業的農業を推進する日本政府の姿が明らかになりました。前述したように、FAOやその他国際機関も小規模農業や有機農業の推進が、環境破壊と気候変動、貧困と飢餓という深刻な状況を打破するための最も重要で有効な鍵を握っていると認めています。

今回の報告では、BRICsの一つであるブラジル、途上国と呼ばれるモザンビークと、 いわゆる先進国でない国々におけるオルタナティブな食と農の模索について取り上げました。 こういった国々において、地域に根ざした小規模で持続可能で、人々の食の主権が保持されつつ、 かつ、当事者たちが望んでいる食と農とは、どのようなものなのでしょうか。今後さらに取材を重ね、多くの声を集めたいと思っています。最終的には、これまで取材してきた地域の人々の模索する食と農オルタナティブに関して動画にまとめることを目指しています。ご支援ありがとうございました。

<2018.10.22 更新>

前回報告させていただいた米国カリフォルニア州のオルタナティブな食と農のイニシアティブの取材を踏まえて、次のステップとしてスペインの食と農を取材する予定にしています。今、文献や現地のホームページ等の情報を通して情報収集をしています。

スペインでは、食と農のオルタナティブな取り組みの模索と実践が活発に行われています。 アグロエコロジーの原則を基本にした環境調和型農業の農産物を通して都市と農村の住民をつなげ、 よりオルタナティブな生産、消費、流通モデルの構築を目指すグループがいくつか存在しています。
例えばマドリードという大都市で、生産者と消費者が合同で立ち上げ、運営する協同組合のBajo el Asfalto está la Huerta(BAH。アスファルトの下に畑ありの意)。生産には生産者だけでなく消費者も参加する、収穫された野菜は全量、等分に会員で分ける、会員なら参加できる毎月の総会で会の運営について決定する、という形をとっています。

1970年代から80年代に日本で高まりを見せた提携運動を彷彿させる取り組みです。 こういったオルタナティブな食と農を求めた共同購入のような産消提携の取り組みが各地で沸き起こっているスペイン。彼らの多くはさらなる目的として社会変革を掲げていますが、簡単にオーガニック農産物が手に入る昨今、日本の提携運動にはなかったチャレンジが多々あるはずです。 また、ソーシャルメディア等、現代ならではのツールもうまく活用しているでしょう。日本の提携運動の経験を踏まえたうえで、こういった点を深く掘り下げて取材できればと思っています。

また今、日本では、小規模でオルタナティブな流通が生まれ始めています。そのいくつかの取り組みを取材しました。
農薬や化学肥料に頼らない小規模農業を目指す新規就農者から農産物を仕入れ、 それを都市生活者に販売する際に、農産物生産を巡るストーリーも伝える役を担うような、 そんな小さな八百屋さんたちです。1970年代、提携運動では、都市の消費者と農村の生産者が直接農産物のやり取りをし、お互いに行き来して交流することで、産消の結びつきを強めてきました。それが唯一といっていい、有機農産物を手に入れる方法だった時代のことです。 しかし今、有機農産物は簡単に手に入るようになっています。 バーチャルに生産者と消費者が出会うことが簡単になったその一方で、食と農が出会える場は少なくなってきたのかもしれません。 インターネットで簡単に手に入る時代だからこそ、小さな八百屋さんのような「畑と食卓のつなぎ手たち」が果たしている役割は大きいと思います。 まるで花と花を忙しく回って花粉の媒介を行うみつばちのようです。 こういった小さな取り組みが大きな果実を実らせるのではないか、そんなわくわく感も持てるのです。

“Food from Nowhere(どこから来たのでもない食べもの)”から“Food from Somewhere”へ、 と言ったのはフードシステム論で著名な研究者キャンペル氏。今日食卓にのぼる食べものは、どこで誰がどういうふうにつくったのか、 そしてそれを食べることでどのような未来を描いていきたいのか意思表示をする。 そんなオルタナティブな食と農の取り組みは世界各地で、もちろん日本でも起こりつつありますが、 そんな取り組みを引き続き調査していきたいと思います。ご支援ありがとうございます。

<2018.5.22 更新>






3月に米国カリフォルニア州に調査に行き、食と農に関するイニシアティブの数々を取材してきました。
具体的には下記のような内容です。
・フードデザート化(食の砂漠化)し食料へのアクセスが限られている都市部における、 地域の店が新鮮な食材を扱いやすいよう支援する取り組み
・マイノリティの人々の伝統食が食べられるだけでなく、地域の人々が集う場となるコミュニティ食堂の運営
・移住労働者が有機農場の労働者からオーナーになるにあたって、栽培方法から資金や土地へのアクセスへなど包括的な支援を行うNGO
・貧困層も新鮮で安全な食材を購入できるようフードスタンプ(食料費補助)を導入したファーマーズマーケット運営団体
・有機農業の包括的なプログラムを運営し、世界各地から履修生を受け入れているだけでなく、栽培した有機農産物をCSA(地域支援型農業)形式でお野菜ボックスとして定期的に近隣消費者に販売する大学内のプロジェクト

以上のほか、有機農業に取り組む小規模農家やNGOなどの農場も10件訪問してきました。
これらの「イニシアティブ」の取り組みは多岐にわたります。
印象的だったのは、そのどれもが、現実の食と農システムに存在する問題から生み出される弊害や、複数の社会問題に切り込み、具体的な解決策として取り組みが行われていることでした。

今後、今回の調査結果をまとめるとともに、別の地域の取材などさらなる下調べを行う予定です。

人文学研究を支援するデジタルアーカイブサービスの開発


申請者:情報学研究科修士1回生 太田 一行

<2019.2.20 更新>



Urticaのベータ版がついに完成しました! 右記の上2点がスクリーンショットです。

私たちの目的は、IIIFの理念にのっとって電子資料を扱う人文学の研究を支援することです。
そんな中、膨大な電子資料を扱う人文学の新しい形としてますます盛んになっていくはずの共同研究の支援のために、 バージョン管理システムを応用しました。その様子は右3点目のような模式図で表されます。

先月には、人文学研究者を含む合計26名を被験者として実験を行い、Urticaの性能上の利点やニーズを確かめました。現段階で、アプリケーションの有効性は必ずしも明確でありませんでしたが、その後のヒアリングなどでは、人文学の仕事領域でアプリケーションによる効率化は必要だという共通認識は確認できたと思います。 しかし、特にサーバサイドや細かな設計面で完全な状態ではありません。今後大きくその姿を変えていくはずの人文学研究の現場に貢献できることを期して、今後も開発を継続していきます。
応援ありがとうございました!

<2018.10.19 更新>

SPEC2017に採択されてから、早いもので1年が経ちました。昨年の秋ごろはJavascriptの“いろは”もわからなかったのですが、周囲の協力も得られてどうにかこうにか完成が近づいてきました。

右の図は10月19日現在のもので、12月上旬にはβ版を一般公開する予定です。 また、ソフトウェアの効果測定試験や論文化などの展開もすでに準備しています。 あともうひと踏ん張り、プログラムを最後まで洗練させ続けたいと思うので、どうか応援をよろしくお願いします。

<2018.5.14 更新>

プロジェクト「人文学研究を支援するデジタルアーカイブサービスの開発」は、現在それを実現するためのソフトウェア“Urtica(ウルティカ)”を開発しています。 Urticaはラテン語で“イラクサ”を意味する言葉です。私たちの目標は、まさにイラクサのように張り巡らされたアーカイブの枝葉を、 できるだけそのままに、直観的に表現できる作業アプリケーションの作製です。

Urticaは現在、ソフトウェア全体の骨組みに加え、abstractをまとめるモード、 バッファモード、簡易なメッセージ機能、そしてクラウドサーバとの通信部分が構築できています。
そして今、開発の焦点はIIIFビューアの実装に移っています。 これはハードな課題ですが、やりがいのあるチャレンジを徐々にクリアしていると感じています。

これらの成果は、3月、京都大学南紀白浜海の家で行われた開発合宿から生まれたものが多いです。 Urtica開発チームは合宿中、昼夜を問わずプログラミングに打ち込みました。非常に得がたい経験をさせていただいたと思っています。
これからも「人文学研究を支援するデジタルアーカイブサービスの開発」いわば「Urticaプロジェクト」に、 ますますのご支援を賜りたく思います。よろしくお願いします!
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