Vol.4 寄付者インタビュー

インテグラル株式会社

代表取締役パートナー 佐山 展生さん

SAYAMA NOBUO 京都府生まれ。1976年に京都大学工学部高分子化学科を卒業後、帝人に入社。1987年より三井銀行(現・三井住友銀行)でM&A関連業務を担当。1994年にニューヨーク大学MBA取得。 1999年東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了(学術博士)。1998年に投資ファンドであるユニゾン・キャピタルを共同設立、2004年GCA(現・GCAサヴィアン)を共同設立。2004年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授(翌年より教授)。2007年インテグラルを共同設立。2009年より京都大学経営管理大学院客員教授。2015年9月よりスカイマーク代表取締役会長就任。『バイアウト』、『社長の器』、『社長の値打ち』、『M&Aとガバナンス』など著書多数。

"おもしろそう"な道を選び続け"
技術者、銀行員を経て起業

 「投資ファンド・インテグラル代表取締役パートナーの佐山展生氏は、京都大学工学部を卒業後、帝人に入社、ポリエステルの開発に携わる技術者から、三井銀行(現・三井住友銀行)へ転職した異色の経歴の持ち主だ。
 「30歳になって、大企業で働くのは自分に向いていないと感じたんです」。
 そこで司法試験の勉強を始めるが、ある日、新聞で三井銀行の中途募集広告を見つける。「銀行が自分のような技術者をどう評価するか」興味を持って応募すると、面接に呼ばれた。その時に初めてM&Aのことを知り、おもしろそうだと思い転職を決意したという。
 同銀行でM&A部隊を率い、その後、日本でいち早く投資ファンドを立ち上げた。
  "おもしろそう"な道を選び、新たなことに挑戦し続けてきた人生。中学・高校は野球一筋で、休みは正月3日間だけの全力投球の日々を過ごした。そんな佐山氏が唯一"やり残し感"を持つのが、京都大学時代だという。

野球部を離れ、無為に過ごした
2年間がその後の教訓に

 高3の夏、甲子園大会京都府予選のベスト8で敗退後、本格的に受験勉強を始めたのは11月初旬。第一志望の建築学科には少し点数が足りず、第二志望の高分子化学科に入った。
 先輩の声がかりで硬式野球部に入部、1年のうちから試合にも出ていたが、このままでは後悔すると建築学科の再受験を決め、いったん退部することに。「教養の単位を取りながらということもあり結果は不合格。これで納得できました」。
 だからこそ、今も京都大学のことを好ましく感じている。以前聴いた最新研究についての講演は非常におもしろく、「さすが京大」だと誇らしかったそうだ。「こういう卒業生は多いはずですから、積極的に情報発信してください」。
 その後、野球部に戻ろうとしたのだが、なんと断られてしまう。一度辞めた者は受け入れられない、と。
 「仕方ないとあっさりあきらめて、2・3 年は別のクラブに入るでもなく、アルバイトに精を出すでもなく、実に無為に過ごしました」。
 何かほかに打ち込めるものを見つけていれば。それが、京大時代をやり直したいと思う理由だ。「でも、その2年間があったからこそ、後悔しないように肝に銘じ、全力で走り続ける原動力ともなっています」。

ゼミの中で佐山氏ただ一人が就職希望だったが、同期や先輩とは今も付き合いが。中央は西島安則研究室の先輩の伊藤紳三郎教授、左は同期の吉崎武尚教授

恵まれた環境に感謝し
思い存分、野球をしてほしい

 持論の中で"痛み"を挙げるその理由は、京都大学ヨット部時代にまでさかのぼる。
 当時、関西の大学野球リーグは入れ替え制で、京大硬式野球部は下部リーグの京滋リーグに所属していた。「現在の関西学生野球連盟は固定。きれいな球場で、強いチームと試合ができる。それなら私も、なにがなんでも続けたでしょう」。
 京大初のプロ野球選手の誕生や、硬式野球部支援基金の設置など、その後の野球部の発展をOBとしてつねに見守っている。
 2014 年に佐山氏はプロ仕様のピッチングマシンを寄贈したが、恵まれた環境で野球ができていることを自覚し、今この時を大切にして頑張ってほしいとの思いからだという。
 結局、3年の12月に野球部に復帰したが、肉離れなどいい思い出がないと佐山氏。そんな中で印象に残るのが社会人野球チームとの遠征試合だ。同窓生が多く勤める工場では手厚いもてなしを受けた。「先輩のありがたみを実感しましたね。野球をやっていたからこそ、できた経験です」。

群れない、人の真似をしない、
"変わっている"ことが京大の魅力

 佐山氏は京大の学風をすばらしいと感じている。「銀行では慶應などの出身大学による結束に驚きました。ところがほかの大学と比べて、京大出身者は一人ひとりが好き放題で、人の真似はしない。この気質が多くのノーベル賞受賞者を生むのでしょうか」。
 しかし最近、群れないと言われてきた京大出身者の集まりが増えた。少人数だが、それだけに互いの信頼感は厚い。「結局、皆"京大好き"。ほかの大学とは違うという誇りも持っている。だから、機会があれば集まるし、京都大学基金を支援する気持ちもあるはず」。
 佐山氏は京都大学でも教鞭を執るが、多様なキャリアを積んできた自らの経験が、学生の役に立てばと願っている。「社会に出て突き当たる壁を乗り越えるために必要なのが"強さ"。野球ばかりしていた、というのでもいい。何かに打ち込んだ経験こそが、その人の"体幹"を太くし、強さに変えるのです。いい意味で"変わっている"京大で、悔いのない時間を過ごしてほしいですね」。

(取材日:2015年6月)