Vol.10 寄付者インタビュー

KASUI YOSHITOMO 1959年生まれ。1983年京都大学経済学部卒業。1983年住友電気工業株式会社入社。2008年人事総務部長。2012年執行役員。2013年常務執行役員。2014年常務取締役。2018年専務取締役(現)。


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Q 京都大学時代の思い出などをお聞かせください。

 入学早々、教養部の授業のおもしろさに夢中になり、これこそが「リベラルアーツだ!」と感動しましたね。単位取得を目的とするわけではなく、興味のある授業を受けていると、自分の興味や志向がわかるようになってきます。京大の自由の学風とは、「何を学ぶべきか自ら考えさせる」風土なのだと、卒業してから気づきました。
 「自由」については、いろいろな解釈や意見があるでしょうが、私自身、「自由には覚悟が必要」だと思っています。自分の選択に対するビジョン、つまり選択の結果として何が起きるかを予見して、その結果に対して責任を持たなければなりませんから。
 実は、24~25歳の頃、筑波大学社会人大学院に通っていました。当時、設置され始めた社会人大学院へ、会社から何を学んでもよいからと派遣されたのです。学生時代には興味の持てなかった近代経済学や統計解析なども学ぶことができて、貴重な機会でした。同時に、他大学を知ったことで京大のこともよく見えるようになり、学生をおおらかに育ててくれる京都の町と京大で過ごせたことは幸運だったと感じる経験でもありました。

Q ご自身の学生時代を踏まえて、
  今の京大生へのメッセージをお願いします。

 いわゆるピンク電話が下宿に1 つしかないような時代ですから、友人とのコミュニケーションは直接会って話すことでした。誰かの下宿先に集まってはしょっちゅう議論をしていたものです。でも、友人の意外な一面を引き出せるのはそんな時。しかも、人と議論をすることで刺激を受け、自らの考えに新しい気づきを得られたりする。それはビジネスでも同じ。ですから、京大生もSNSに頼らず、議論や対話を大切にしてほしいと思います。
 大学で学んだことが、そのまま実業につながることは少ないでしょう。しかも、学生生活より社会人生活のほうがはるかに長い。となれば、学生時代にやるべきは、必要な知識をいくつになっても補える基礎をしっかり固めておくことです。さらに、仕事というのは「自ら構想を練り、現状を分析して検証する」ことの繰り返しです。京大生はリベラルアーツなどを通して「自ら学び、柔軟に考える力」を養っているのですから、ぜひその能力を発揮してください。
 私は学部やゼミとは関係なく、下宿先界隈で一緒に"ウロウロしていた"仲間たちと、今も年に数回集まっています。同じ学風、土地で過ごした仲間はかけがえのないものです。皆さんも、卒業後も時には集い、時には母校に目を向けてください。

Q 創立125 周年を迎える京都大学にどんなことを期待されますか?

 京都は人を寄せつける力を持っている場所です。その地の利を活かさない手はありません。125 周年記念事業の一環である留学生育成プログラム「Kyoto iUP※」にも、企業として大きな期待を寄せています。そうした取り組みの意義は、当然「人材育成」でありましょうが、京都そして日本のファンをいかにしてつくるかという視点もぜひ持っていただきたい。勉強だけではなく、日本の文化や歴史、生活などを学生たちにしっかり伝えてほしいと思います。
 そしてもう一つ大切にしてほしいのが、海外留学生たちの同窓生組織のサポートです。将来、日本や海外で活躍してくれるであろう「京都に住み、京大で学んだ」人たちのネットワークが広く強固であることが、京大の発展の原動力になるはずです。そういう意識を強め、卒業後のサポートも含めて取り組んでいただけることを期待しています。

※Kyoto iUP(Kyoto University International Undergraduate Program)は、日本語により学部卒業(さらには修士課程や博士後期課程修了)レベルの専門知識を獲得した留学生を育成するプログラム。グローバル展開を図る日本企業および日本経済そのものを牽引できる高度な外国人留学生の輩出と、日本社会への定着に貢献することを目指す。

(取材日:2019年4月)