Vol.34 寄付者インタビュー

HYODO MASAYUKI 1959年愛媛県生まれ。1982年京都大学工学部卒業。1984年京都大学大学院工学研究科修了後、同年に住友商事入社。インドネシア住友商事社長、電力インフラ事業本部長、経営企画部長、環境・インフラ事業部門長などを経て、2018年6月より現職。


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Q どんな京都大学時代を過ごされましたか?

 父、祖父ともに京都大学法学部の出身で、子どもの頃からよく話を聞いていました。2 人とも"自由"を謳歌して楽しく過ごしたようで、私もいつしか京都大学に憧れを抱くようになりました。
 戦後復興から高度経済成長を経験している父に、これからの日本を支える技術を担える人材になれと言われていたので、電気工学を選択しました。
 話に聞いていたとおり、京都大学はおもしろかったですね。印象に残っているのは、企業で最先端の技術開発に携わる先輩たちの講演です。夢ある話にインスパイアされました。そのまま、まともに勉強していれば、メーカーに就職していたでしょう。

Q 理系出身で、なぜ商社に入ろうと思われたのですか?

 学部では原子力計測工学を専攻し、大学院では制御工学に転籍しました。大学院の担当教授は非常に数学に優れた方で、ついていくだけで必死。自分の数学力の限界を感じたことが、就職に影響することになります。
 就職については研究室ごとに推薦があり、第一志望だったIT企業は応募者多数で選から漏れ、次に電気や重電メーカーを訪問。開発部門の方々の話は興味深かったものの、やはり数学が壁となって「自分の居場所はすぐになくなる」と思いました。
 なかなか決められずに周囲から取り残されていた時、ふと、商社はどうかな、と。住友を思い浮かべたのは、私が生まれ育った愛媛県新居浜市は別子銅山を中心とする住友の企業城下町だったからかもしれません。研究室は通さず一人で担当者に会いに行き、無事に採用が決まりました。でも、先生には「後輩のことを考えていない」と叱られました。国費で導入された最先端のコンピュータを使って研究していたわけですから。その時、先生がおっしゃったことは今でも大切な教訓として心に残っています。
 「研究するだけが仕事ではない。ずっと研究のフロントにいるわけではなく、いずれプロジェクトチームを率いなければならない。数学が得意ではないという視野の狭い考え方で、自分の行く道を狭めてはいけない」。

Q 京都大学で身につけたことが活きたということはありますか?

 プログラミング上にバグがあった時、正しいと思っていた方法ではうまくいかず、発想を変えると間違いが発見できることがありました。視野を広げ、自分の常識を否定することが気づきの機会になる。そのことを経験をもって知ったことが、「既成概念にとらわれていないか。ほかに見方はないか」とつねに考えるという私の強みになっています。
 視点を変えれば新たな課題設定ができます。脱炭素の取り組みにしても、温室効果ガスの排出につながる活動を否定するのではなく、炭素を循環して大気への滞留を抑えるという前提に立てば、必要な技術開発や投資先の優先順位にまで考えが及びます。
 社員への指示も、今の方法を疑い、考え、新たな発想につなげてもらうことを意識しています。「右向け右」では思考は停止してしまいます。たとえ失敗しても、失敗は学びの機会になります。
 人と違う視点に加え、もう一つ私が大切にしているのは、マクロとミクロの両方の視点で考えることです。ミクロな視点だけでは、発想は縮こまって内向きになりがちです。「日本はここがダメ」「昔は良かった」という言い方をよくされますが、日本はアジアの発展に重要な役割を果たしているし、日本企業は高い社会価値・環境価値・経済価値を持っています。マクロな視点で正しく存在意義を認識し、実行を貫いていくことが大切ではないでしょうか。
 ヨーロッパ主導によるカーボンニュートラルの取り組みについても、マクロとミクロの視点では景色が変わってきます。日本は置かれた立場を見据え、新たな技術開発を含め幅広い視点で考えていく必要があります。

Q これからの京都大学に どんなことを期待されますか。

 京都大学はグローバル、ダイバーシティという点で、まだまだ取り組みが必要でしょう。決して本質ではないけれど、教育の言語を英語に統一するのも一つの方法かもしれません。グローバルなアカデミアネットワークの充実も必要です。世界中の優秀な学生が日本で学び、いずれ自国の中枢を担う人材となることは、日本にとっても大切な資産となります。
 当社も活動支援をしている日本経済経営研究所は、コロンビア大学ビジネス・スクールの研究機関の一つであり、優秀な修了生を世界中に送り出しています。こうしたコミュニティが日本に増えてほしいし、ぜひ京都大学にはその筆頭になっていただきたいですね。
 社会の発展に欠かせない教育システムの中で、京都大学は優秀な人材を育て続けてください。我々企業も社会活動や研究室での研究を実践する"場"を提供していきたいと思います。

Q 最後に、京大生へのメッセージをお願いします。

 私はよく学生さんに「今しかできない勉強、研究に没頭してほしい」とアドバイスしています。知的好奇心やおもしろそうという理由だけで、好きなことに取り組めるのは学生時代しかありません。
 そして、よく遊び、よく学び、どんどん世界へ出て行きグローバルなセンスを持った人材になっていただきたいです。皆さんには私が就職した時に上司に言われた言葉を贈ります。「自分たちが見ているのは世界の1%にも満たない。無限に広がる世界を、自らの目で見に行きなさい」。

(取材日:2022年11月)