Vol.36 寄付者インタビュー

AKIYAMA SAKIE 1987年京都大学法学部卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)に入社。主に金融関係の顧客を担当し、戦略企画から業務分析まで事業のシステム構築全般に携わった。1991年に退職。1994年にサキコーポレーションを設立し、2018年まで代表取締役社長を務める。2018年10月より同社ファウンダー(顧問)。
ソニー株式会社・オリックス株式会社・日本郵政株式会社・ 三菱商事株式会社社外取締役。

Q 文学部から法学部に転部されたそうですね。

 当時の周りの保守的な考え方に影響を受けて「女の子は文学部の方がいい」という漠然とした考えで入学したものの、大学でさまざまな人たちと交流する中で、自分自身の考えや将来への希望について深く考えることになりました。当時は、「シンデレラ・コンプレックス」という女性の認識バイアスについて書かれた本がベストセラーになるような時代でした。
 文学部では専門課程まで進みましたが、ゼミには社会人としてキャリアを全うし学士入学して文学を研究する方もおられ、好きな文学を学ぶことを将来の宿題にしてもよいと考えるようになりました。それよりも、卒業後に長く働き続けることができるような準備をしておきたいと考え、法学部への転部を決心しました。

Q 就職から起業までの経緯をお聞かせください。

 転部によって卒業が遅れたことが、その後のキャリアを大きく左右することになりました。就職活動の年に、男女雇用機会均等法の改正が施行され、女性に総合職として採用される門戸が開かれたからです。初めての女性総合職採用プロセスにおいては、今となっては笑い話になるような経験もし、結果的に、外資系のコンサルティングファームを選びました。
 外資系とはいえ、女性のプロフェッショナルを新卒で採用するのは初めてという時代。お客様は日本企業ですから、コンサルタントとして現場に入ることは特別な緊張感があり、自分の仕事を認めてもらいたくて学生時代以上に猛烈に勉強しました。
 それほど打ち込んでいた仕事を辞めて起業するきっかけになったのは、仕事と結婚生活の両立問題です。起業のパートナーでもある夫とは京都大学の写真部で出会い、私の就職と同時に結婚しました。お互いに仕事に打ち込むことで離れ離れの生活が続き、将来について考えざるを得なくなるとともに、結婚によって挑戦したいテーマが生まれてきたのです。
 当時、日本を代表するメーカーの研究所で開発技術者として働いていた夫の仕事を見ていると、数多のすばらしい開発のうち実際の製品やサービスとなって社会で役に立ち、技術者が喜びを感じられる仕事が意外に少ないことをもったいなく感じていたため、大企業でできないのであれば、自分たちの手で世に出していきたいと考えるようになりました。
 技術者とコンサルタントの組み合わせでの起業ですから、合理的な役割分担として、私が社長を務めることにしました。
 気がつけば自分には、「女性起業家」「製造業」「最先端の技術開発」「世界市場での自社ブランド構築」といったタグ付けがされ、希少性から注目されることが多く、本業以外でもさまざまな機会をいただくこととなりました。

Q 「京都大学だったからこそ」と思うことはありますか?

 京都大学に入学した時、あまりの自由放任な空気にショックを受けました。すべてのことを自分で考えて自分で行動する必要があったからです。田舎の優等生だった私にとっては、自分自身を再構築するような時間でした。この原体験は、現在まで私自身のベースとなっています。他人と違う道や、ロールモデルのない選択肢を選ぶことができたのも、この経験があればこそだと思います。
 社会の価値観が大きく変わろうとしているこれからの時代において、自ら新しい道を切り開くために必要な力を得ることができたと感謝しています。

Q ご自身の経験も踏まえて女性の活躍推進について
  どのようにお考えですか?

 私の世代は、機会均等の考えに基づいて門戸が開かれた時代でした。多くの試行錯誤が繰り返されてきましたが、一貫して女性はマイノリティ、すなわち野党としての立場に留まったままだったと感じています。しかし、現在は経済成長を担う重要な存在として責任ある政権与党の立場に立つことを求められる時代になりました。無責任な批判や理想論に留まることなく、覚悟と責任をもって行動することが必要です。次世代の女性の皆さんには、臆することなく未来に向けて進んでほしいと思います。
 そして、京都大学には、東京にはない地の利を活かした大胆な取り組みによって、ジェンダーダイバーシティを推進してもらいたいです。

Q 最後に、京大生へのメッセージをお願いします。

 近い将来、社会に出て世界の大きさを実感し、新しい時代の中心となっていく皆さんにとって、人生の羅針盤となる学びを存分にされますように。皆さんは、自分で考えているよりもずっと大きな将来の可能性を持っています。自分で考え、自分の責任で行動することのできる環境を楽しんでください。

(取材日:2022年12月)