Vol.12 寄付者インタビュー

MATSUI AKINORI 1959年兵庫県生まれ。1982年京都大学経済学部卒業。日本生命保険相互会社などを経て、2001年ピムコジャパンリミテッド入社。2007年よりウエリントン・マネージメントで金融法人、年金基金、サブアドバイザリー顧客とのビジネスを統括した後、2010年にピムコジャパンリミテッドに副社長として復帰。2014年6月より取締役会長兼共同最高経営責任者(Co-CEO)および日本における代表者。2016年9月より現職。
一般社団法人日本投資顧問業協会副会長。経済学学士号。日本証券アナリスト協会公認認定アナリスト(CMA)。

Q 寄付に際して、京都大学に対する
  どんな思いがあったのでしょうか?

 同じ京大生だった兄共々、下宿暮らしをして親にたいへん苦労をかけたことを思うと、少しでも奨学金の助けになればと寄付を続けています。そうした思いの根底には、母校への愛情があります。京大時代は私の考え方の土台をつくってくれた4年間だったからです。自由な学風のもと、人生についてじっくり考えることができましたし、批判と創造の精神を涵養できたことは、今思えば得がたい人生の上での貴重な機会でした。自分で物事の本質を見極めようと考え、決断し、行動することは、人生にも仕事にも欠かせない資質であり、それを形成させてもらえたわけです。
 また、このような環境の中、一生涯の友人を得られた京大には愛着もひとしおです。

Q 松井さんが思う"京大生像"とはどのようなものですか?

 今、金融業界のトップに同世代の同窓生がたくさんいますが、私は現在のような変化の時代にこそ、京大卒業生の活躍の場があると考えています。
 第4次産業革命と言われる時代になり、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の発展によって、従来人間が行ってきた仕事をとって代わるようになってきました。そんな時代に人間が果たすべき役割は、現状から課題を設定して解決方法を探り、長期的な予測をたて、未来のために今創造すべきことを考えることです。そこで発揮されるのが、「体制におもねらず常識を疑い、創造的に考えて果敢に実行できる」"京大生の気質"ではないでしょうか。

Q 少子高齢化問題を抱える日本、京都大学は
  どんな役割を果たすべきでしょうか?

 日本には1,880 兆円もの個人金融資産があり、半分以上が預貯金として眠っています。保有者はおおむね退職世代です。この資産を有効活用して、高齢化によって膨らむ社会保障費に充てるといった施策が必要だと考えています。 私が副会長を務める日本投資顧問業協会と投資信託協会合同の寄付講座を京大で実施していますが、その中で、資産運用の重要性を訴え、若く優秀な人材が活躍できる場として焦点を当てていきたい。これが、日本の未来に対して、我々資産運用会社が果たすべき責務ではないかと思います。
 では、京都大学の役割は何か。大学は新しいテクノロジーやイノベーションを生み出す研究をする場である一方、テクノロジーの進化により、人間が抱えることになる不安に向き合う学問を探求すべき場でもあります。「人間の存在価値とは? どう生きるのか?」といった問いに答える哲学をはじめとする人文社会科学的な学問は京大が得意とするところであり、今後ますます重要になってくるでしょう。

Q 最後に、京大生へのメッセージをお願いします。

 知識やスキルは年齢を重ねても身につけることができますが、大切なのはそのための基礎。土台の大切さを知り、学生のうちにしっかりと基礎を鍛えてください。
 私は寄付講座で講師を務める際、学生に必ず次のメッセージを贈っています。
 物事を「重要か否か」、「緊急か否か」という4象限に置くと、個人のみならず国家や企業も当然、重要で緊急なことは行いますが、重要ではないけれど緊急を要することにも多くの時間を割いてしまいがちです。でも、京大生には、緊急じゃないけれど重要なことにこそ取り組んでほしい。
 少子高齢化の問題も、ゆっくり進行しているので緊急性はありませんが、日本の未来にとっては重要なことです。批判の精神を持ってほかの人が気づかない課題を見つけ出し、解決策を考える。京大生にはできるはずであり、やっていただきたいと切に思います。

(取材日:2019年4月)


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