Vol.13 寄付者インタビュー

SAWADA JUN 1955年大阪府生まれ。1978年京都大学工学部土木工学科卒業。1978年日本電信電話公社(現NTT)入社。2008年NTTコミュニケーションズ取締役、2012年副社長。2014年NTT副社長、2018年NTT代表取締役社長(現)。


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Q どんな京都大学時代を過ごされましたか?

 「すばらしい学生生活だった」と心から思えます。大学に入ってから始めたアメリカンフットボール部は体力や能力の限界を感じて1年で辞めてしまったものの、その後、いろいろな人や本との出会いがあり、かえって自分の世界が広がったと感じます。
 11月祭の手伝いをして、自らギター演奏で舞台に立ったり、2回生の時には有名歌手をお呼びしたのに停電に見舞われてマイクなしで歌ってもらうはめになったり。そんなハプニングも含めすべてがいい思い出です。以前に、過去の11 月祭統一テーマを調べて分類してみたことがあるのですが、時代背景と京大生の意識がリンクしていて興味深かったですよ。
 1~2回生は勉強は二の次でしたが、専門に進んでからは勉強にも打ち込みました。研究室は豪快な先生と愉快な仲間に恵まれ、いつも大盛り上がりの酒宴、卒論締切間際のドタバタ劇、先生に連れていったもらった初めての祇園、進路選択の際の先生方の強烈なアドバイスなど、エピソードを数え上げればきりがありません。
 1年で辞めたとはいえ、アメフトから得たことも大きい。コーチの指示の意味がわからないまま違うコースを走ってプレイをつぶし、しばらく試合に使ってもらえなかった経験があり、「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」だと肝に銘じるようになりました。アメフトを通じた人の輪も広がっています。在籍したメンバーには企業のトップを務めている人が何人もおり、土木の同期にもアメフト仲間が数人いて今も数カ月ごとに集まっています。
 土木、アメフトとは別に、教養部のフランス語で一緒だった工学部のあらゆる学科を網羅したメンバーとのつながりも続いています。幅広い業界の人たちとの関係もまた、かけがえのないものです。

Q 京都大学で過ごしてよかったと思うのはどんなことですか?

 京大はホモジニアス(同質)の人たちの集団ではなく、実にさまざまなタイプの人たちがいる。大学内にダイバーシティがあって、刺激を受けました。
 そして、自由の学風の中に身を置けたことは、何にも代えがたい経験でした。自由とはすべて自己責任ということ。自ら考え、学び、行動しなければ何も起こりません。しかも多様な人たちと接する中では、いろいろな考え方を受容し、ある面では協調しある面では自らリードすることも必要です。これはビジネスにおいても必要な素質やスキルであり、大学時代に基礎となる部分を養っていたのだと思います。

Q 創立125 周年に寄せて、京都大学への期待や京大生への
  メッセージをお願いします。

 期待することはたくさんありますよ。
 まず、京大は自由がベースにあることから、柔軟性や受容性が高いと感じます。そこからダイバーシティやインクルージョン(包括:多様な人材が集まり、相互に機能している状態)が生まれ、ダイナミズムにつながっていくのではないでしょうか。この風土は非常に重要であり、今後、さらなる具象化を目指してほしいと思います。
 特別に大きな期待を寄せているのは、人文知の牽引です。当社は文学研究科の出口康夫教授と共同で、サイバー社会において人類が豊かに生きるために、テクノロジーの進化と人とが調和する新たな世界観を構築するプロジェクトを立ち上げました。高度なICT 社会を迎え、人間の生き方すら変わるかもしれない今、哲学の必要性は高まっています。西田哲学に始まる京都学派の伝統を持つ京大は、これからの時代に必要な哲学を打ち出すことが可能なはずです。ぜひ、世界に存在感を示していただきたい。
 また、日本人のノーベル賞受賞者がいない経済学について、思い切ってチェンジを図り、新しいダイナミズムやイノベーションを生み出すような、"京大発"のオリジナルな経済学を生み出してほしいですね。
 さらに、教育面については、入口で高いレベルを求めるだけではなく、出口に向かって高めることが肝要で、その意味では、自学自習を促す自由の学風はふさわしい。この学風を大切にし、「魅力があるから世界中から人が集まる」大学になっていただきたいと思います。
 一方で、私自身、教養部の勉強をもっとすればよかったという後悔があり、難解な本を読もうとしては挫折した経験があります。自立的な学びをモットーとしつつも、導入部分や印象を大切にして、興味を持たせ、学びたいと思える魅力を伝えるような教え方の向上も必要ではないでしょうか。最初の一歩を踏み出させてあげることで、その後の学びも大きく変わってくると思います。
 京大生には新しいことに果敢にチャレンジするワイルドさを持ち、常に前傾姿勢で進んでいただきたい。日本は右肩下がりの縮小社会へ向かっていると言われますが、イノベーションで変えていけます。自分たちが未来を担うという意気で突き進んでくれることを期待しています。

(取材日:2019年11月)