Vol.25 寄付者インタビュー

TAKASHIMA MAKOTO 1958年広島県生まれ。1982年京都大学法学部卒業、同年住友銀行(現・三井住友銀行)入行。2009年三井住友銀行執行役員、2012年常務執行役員、2014年専務執行役員、2016年取締役兼専務執行役員、2017年4月より現職。同年6月より株式会社三井住友フィナンシャルグループ取締役を兼務。2021年7月一般社団法人全国銀行協会会長に就任。


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Q 京都大学時代の思い出などをお聞かせください。

 高校生の頃から、京都大学の"イメージ" に対する強い憧れがありました。反中央や在野の精神を持ち、自由と自主を尊重し、ユニークで先進的な研究をしている人が多い、そんなイメージです。現役の時に京都大学と東京の私立大学の2 校を受験したのですが、合格したのは私立大学だけ。入学手続きはしたものの、京都への思いを断ち切れませんでした。大学には通わず、一人で受験勉強をしながら翌年に再挑戦しました。
 入学しての第一印象は、正直なところ"泥臭い"です。自転車通学の学生が多く、電車などに乗らないからおしゃれにも頓着しないんですね。でも、学生の多くが「自分はこうしたい」という考えを持っている点はイメージと一緒でした。
 私自身は孤独に学問を追求していくような型どおりの"インテリ"学生を目指したものの、結局は上滑りでした。自由な環境の中で適度に授業をさぼり、興味のある授業には出席する、ごく普通の京大生となりました。1・2 回生の時に特に打ち込んだのが憲法研究会の活動です。ここで議論することの楽しさや主張することの大切さを知りました。
 当時、法学部は法曹を目指す人が過半数を占め、3回生になると司法試験に向けて勉強モードへと切り替わります。司法試験は今より狭き門で、留年しながら何度も挑戦することは珍しくありませんでした。私は5回生まではチャレンジしようと決めて取り組みましたが、合格はできず就職することにしました。

Q 住友銀行(現・三井住友銀行)に入行され、3年目に米国へ
  留学、その後、大半は国際畑を歩んでこられました。

 海外勤務などは想像していなかったので、米国留学の内示が出た時は驚きました。しかも、内示は8月、10月には英語力共通試験が迫り、翌年1 月が願書締切というタイトスケジュールのうえ、人事部からはハーバードやスタンフォードなどの「トップ10」の大学に行くように言われ大焦りでした。最終的に留学先はカリフォルニア大学バークレー校(UCB)に決まりましたが、日本に勢いがあった当時は米国の大学が積極的に日本人の留学を受け入れていたから合格できたのだろうと思います。
 最初の頃は生活を楽しむ余裕などまったくありません。講義に出ても何を言っているかわからず、大量の文献や資料を読み込まなければならないし、論文の執筆もしないといけない。第一学期の試験が終わるまでは、死ぬ思いでした。
 米国には各国から学生が集まっていて、ちょうどUCBは中国人留学生を初めて受け入れた時でした。彼らが図書館にこもって猛烈に勉強していたことを覚えています。強い使命感を持って学びに来ていたのでしょう。
 たしかに留学生は国の代表として、日本という国、日本人という存在について説明できなければなりません。それなのに私は「日本は?」と意見を求められても、うまく説明できない。ショックでした。語学力の前の段階で、自分は日本の歴史、文化、政治、経済について語るべきものを持っているのか考えさせられました。
 そうした経験を経て価値観は修正を迫られ、「主体となるものと語るべきものを持ち主張できる」ことが国際人なのだと気づかされました。以降、国際畑を歩むことになりますが、つねに批判的な視点で見ながら自分の考えを持ち、主張できることが重要だという心構えが留学経験によって培われたように思います。

Q 海外での経験から、京都大学の価値や強みを感じることは
  ありましたか?

 前述の国際人に必要な要素は、京都大学が大切にしているマインドであり、育成を目指している人材像である、同時に京都大学の強みでもある、と後になって気づきました。
 京都という土地も重要です。語るべき歴史や文化にあふれていて、日本人としてのアイデンティティを築きやすい。何より、京都の大きな特徴は、伝統と革新が絶妙なバランスを保っていることです。これは伝統への理解があってこそ成り立つもので、伝統を大切にしながら目指すものは極めて革新的。京都企業などはその典型でしょう。伝統的な技をベースにした最先端技術を、京都に根ざしながらグローバルに展開している。しっかりとベースを持って主張していますね。
 このような場所と大学で学生時代を過ごしながら、京都を十分に探索しなかったことは大きな後悔です。神社仏閣を観光するだけではなく、いろいろな人に話を聞き本を読み、深く歴史や文化に触れておけばよかったと思います。

Q 創立125 周年に寄せて、京都大学や京大生へのメッセージを
  お願いします。

 学生時代にぜひやっていただきたいのは、根源的なものに向き合うことです。根源的なものとは、単に「人間とは何か」といった哲学的な話ばかりではありません。いわば「原理原則」と言えるもの。原理原則からの視座があって初めて解があり、革新や変革があります。法律にはその国の文化や社会が背景にありますが、その背景を理解することで、事象の解釈や事案の解決に必要な考え方をすることができますから。
 多様な学問を学びすそ野が広くなるほどサミット(頂上)は高くなります。例えばノーベル賞受賞者は広い叡智を持っているから、専門分野で高みにのぼることができる。海外のビジネスリーダーたちには「深み」があると感じるのも、いわゆるリベラルアーツやビジネス以外の分野に関する知識が豊富ですそ野が広いから、卓越したアイデアや経営力が生まれるのでしょう。
 土台となるすそ野は、学生時代に古典をはじめ書物を読み、先人の知恵を学び、根源的なものを探究することでつくられるもの。人間的深みの端緒をつくる場所として京都大学ほどふさわしいところはないでしょう。いずれ高いサミットを目指して、広く強固なすそ野を築いてください。

(取材日:2021年8月)