Vol.32 寄付者インタビュー

UNO AKIRA 1942年京都市生まれ。清水小学校、同志社中学・高校を経て1966年京都大学経済学部卒業、住友銀行(現・三井住友銀行)入行。取締役本店支配人退任後、三井住友カード代表取締役副社長、SMBCコンサルティング代表取締役会長を経て、2006年日本郵政執行役員となり郵政民営化に従事。ゆうちょ銀行常務執行役退任後、2010年10月~2022年3月京都大学経済学部特任教授。DMG森精機シニアエグゼクティブフェロー、橋本総業ホールディングス社外取締役、三社電機製作所社外取締役(いずれも現任)。2022年より京都大学総長特命補佐。

Q スキー競技部での活動をはじめ、
  どんな京都大学時代を過ごされましたか?

 高校生の時は60年安保の学生運動が激しい時代で、大学生になったら私も運動に参加するつもりでしたが、実際にはとてもついていけなくて、まじめに授業に出て部活動に励む京大生となりました。
 所属していたのはスキー競技部(アルペン)です。長野県にOB所有の志賀高原ヒュッテがあり、毎年12~1月に合宿を行っていました。全日本スキー学生選手権大会は1から3部まであり、京都大学は国立大学で唯一の2部校。順位争いの決め手となるノルディックスキーのリレーが京都大学は強かったのですが、やはりヒュッテを持っていたことが大きかったのでしょう。ちなみに、本ヒュッテは2009年に大学に寄付されました。
 理系の学生が多く所属していたことも強さの理由だったと思います。医学部は6年制ですからキャリアが長くなりますし、大学院に進学した先輩たちがコーチを務めることも伝統になっていましたから。
 スキー部の仲間とは今も深いつき合いをしています。理論経済学の菱山泉先生のゼミはもちろん経済学部同窓会の仲間などとも関係が続いており、こうした人間関係こそが京都大学で得た大きな財産です。

Q 還暦以降、いくつかキャリアチェンジをされています。

 銀行を勤め上げた後、63歳の時に日本郵政執行役員となり郵政民営化に従事したのですが、民間金融、官製金融の両方に携わったことで日本全体の金融を見渡すことができました。両方を経験しているのは異色のキャリアなのか、京都大学経済学部の先生から講義をしてほしいと依頼され、2010年に特任教授になりました。それが68歳の時。まさに還暦を過ぎてからキャリアチェンジを2回して、産官学すべての組織を経験したことになります。
 さらに、特任教授として学会などに参加するうちに博士号の必要性を感じ、78歳にして論文博士を取得しました。
 銀行員時代は辞令ひとつで動いてきましたが、63歳になって初めて自らの意思で動き、以降は変化に富んだ人生です。一つのフィールドにいるだけでは見えなかったことが、違うフィールドに立つことで視野が広がり見えるようになるのがおもしろい。今年で80歳、もっと早くに動けばよかったとは思いますが、スタートが遅かっただけにまだまだチャレンジを続けたいですね。

Q そのチャレンジの一つが、
  博士課程への進学サポートでしょうか。

 日本では10年も前から、特に文系における博士号取得者が減少する「低学歴化」が問題となっています。海外企業では多くの博士号を持つ人がグローバルに活躍しているのに、これでは世界的な競争力は衰えるばかりです。日本では企業側が特に文系の博士号取得者の採用に前向きでなく、学生が進学したがらないなど、低学歴化の背景には複合的な原因があり、対策は一筋縄ではいきません。
 国のサポートも拡充されてきましたが、京都大学でも博士課程学生に対する経済支援などの対策を進めています。今年、博士課程の人文・社会科学系分野を専攻する学生を対象にした「DMG森精機 後期博士課程支援 給与奨学金」が設立されましたが、本学卒業生である森雅彦社長(工学博士)もかねて博士号の重要性を訴えてきました。理系とは違い、文系の博士課程学生に対する支援制度が少ない中、企業にできる解決策の一つであり、他の企業にも広がってほしいと考えています。
 私はDMG森精機のシニアエグゼクティブフェローを務め、この奨学金設立にも関わってきた経緯もあり、今年4月、京都大学総長特命補佐に就任しました。今後、低学歴化問題の解決に向けて尽力していきたいと思います。
 一方、大学側も学内で優秀な学生をリクルーティングして、修士・博士への進学をバックアップするなど、施策を打ち出していく必要があります。
 日本の高等教育制度は過渡期を迎えています。今しかるべき手を打たなければ、10年後、20年後の研究競争力において、世界に大きく後れを取ってしまいます。

Q 最後に、京大生へのメッセージをお願いします。

 私は博士論文の作成を通して、アブストラクト(要旨)がいかに重要であるかを学びました。いわば"つかみ"の部分によって、大勢は決まります。これはどんな仕事にも言えることで、博士号取得のための勉強は仕事のトレーニングにもなり得ます。ですから、奨学金制度などをフル活用して、ぜひ修士、博士課程に進んでください。
 また、京都大学の卒業生には体育会出身で出世されている方も多くいらっしゃいます。勉強"だけ"では培われない力があるということでしょう。学生時代は勉強やスポーツを含めさまざまな経験を両立することで幅広い力を磨いてほしいと思います。

(取材日:2022年7月)