Vol.16 在学生座談会



--------まずは、皆さんどこに行って何をやってきたかをお聞かせいただけますか。

藤田私と司くんとあと3名の計5名のチームは、アラスカに行ってオーロラから出ると言われる音について探求しました。そのメカニズムについては解明されていなかったので、オーロラの発生に伴って発生する電磁波が脳に直接作用し、音波としては届いていなくても人間はそれを感知するのではないか、という「直接知覚説」という仮説を立て検証を試みました。オーロラの音かもしれない音の録音には成功したのですが、電磁波が脳に作用するかどうかというところまでは、帰国後もずっと研究を続けているのですが、まだ結論は出ていません。
僕は生物学専攻なのですが、宇宙物理学専攻の藤田さんたちといっしょにこの研究をすることによって視点が増え、探求への可能性が高くなればいいな、と思って解明に挑みました。脳に存在するクリプトクロムという分子が、電磁波に反応するのではないかと考えたのです。目隠しをされても地磁気を感じて方角がわかる、というのをクリプトクロムが実現しているんじゃないか、と。結論は出ていませんが、アラスカ大学にいらっしゃるオーロラ研究の第一人者である赤祖父俊一先生をはじめ、ふつうに大学生活を送っていては交流できなかったであろう人たちとの議論によって、いろいろな刺激を受け、新しいことを知ることができました。

--------「直接知覚説」についての見通しはどうですか?

録音データを解析したのですが、オーロラが「音」を出しているか否かということに関しては検証できませんでした。帰国後に、クリプトクロムが磁場を感じることができるかについての研究を続けていたのですが、つい最近、東大の研究グループがそれについての論文を発表されたので、私たちは今後、そのメカニズムの解明のほうに少しシフトしていこうかと思っています。
福田人類には本来その機能が備わっていたけど、科学の進歩で方角を体感する必要がなくなったから退化した、というようなことは考えられないんですか?
そういう観点の議論はあります。たしかに弱くなっているんじゃないか、と。
福田やっぱりそうなんですね。鍛えればオーロラの音が聞こえるようになったりするかも。
ありえますね。

観測地であるアラスカの大自然で撮影したオーロラ。オリオン座も写っているベストショット 観測の様子。9月であるがかなり寒く、
夜は氷点下に近くなることも


--------田畑さんはアフリカのウガンダに行かれたんですね。

田畑高校生の時に見た、芸能人がアフリカに行く「こんなところに日本人」という番組が記憶に残っていて、大学に入って、ウガンダを支援しているNPOが京都にあることを知って、インターンシップに行きました。その活動を説明する際に、「きみはウガンダに行ったことあるの?」と言われたことがずっと気がかりで、やっぱりアフリカに行ってみようと思いました。でも、航空券代だけで十数万円かかるのでかなりきびしいなと思っていたところに、おもろチャレンジを知り応募しました。国際支援・国際協力というものの実態を、自身の目で見て体験しようということをテーマにして、とにかくひたすら、支援にかかわっている人や支援を受けている人に話を聞いてきました。それ以来アフリカにどっぷりハマっています(笑)。

--------何が一番印象的でしたか?

田畑支援というのは、現場に行っている人の力がすべてではない、ということですね。通信が発達した世の中ですから、いろいろなところで、それぞれの持ち場で役割を発揮している、そういう人たちの総合力が重要なんだと思いました。とにかく現場に行けば何かできる、というのは違うんだな、と。

かまどを共同でつくるコミュニティ


--------福田さんはもともと台湾に住んでいたんですね。

福田小学校から中学校にかけて4年半ほど、親の仕事の関係で台湾で暮らしました。台湾の家庭は日本に比べると家で料理をしないんです。つまり「外食」という文化が根強い。朝ごはん屋さんがたくさんあって、朝からみんな外食する。日本では、外食する人のほうがリッチというイメージがありますが、台湾は逆で、リッチな人しか家で作らないんです。
藤田なぜそうなるんですか?

福田今回私は、外食産業が盛んなことと女性の社会進出に大きな因果関係があるのではないか、という仮説を立て検証に挑みましたが、そこに深い関係性は見出せませんでした。女性が外で働く背景としては、日本と比較すると「家事」に対する考え方(=文化)の違いが大きいと感じました。台湾では男性と女性の家事における役割分担がきちんと出来上がっていて、たとえば女性が炊事をすれば、掃除機をかけるのは男性、といった具合です。ですから、女性が仕事をしやすい環境にあるわけです。外食が盛んなのは、働く女性が多いこと、きちんとした台所がある家が少ないこと、飲食産業の人件費が安いこと、健康に対する意識が高くないこと、などがありえましょうが、いずれも確証にまでは至らず、推測の域を出てはいません。
男女間の収入格差はあるんですか?
福田いえ、ほとんどありません。女性もバリバリ働いていますから。台湾ではジェンダー論はタブーで、女性の自立とかはもうあたりまえなので、「いまさらそんなこと言う人がいるの?」みたいな感じです。

現地で食べた朝ごはん。朝ご飯屋は
朝5時くらいから開いていて、夜は閉まる


--------皆さんにとって、SPECやおもろチャレンジの存在はどういうものでありましたか?

SPECは事前の計画書を綿密に書かないといけないので苦労しましたが、研究プランを立てるためにどうすればよいのかということから筋道を立てること自体が、まず勉強になりました。研究者になるための訓練、とでも言いましょうか。もちろん、渡航費などの援助金はありがたかったですが、お金そのものよりも、援助がなければできなかったであろう研究のきっかけを与えていただき、いろいろな人に出会えて、それによって学生時代に視野が広がったことに、おおいに感謝しています。
藤田どんなテーマであれ、モチベーションが強ければOKというその枠組みが魅力ですね。
福田同感です。学生の未熟な思い付きでも、お金をいただけて形にさせてもらえるっていうのは、すごく京大らしいと思います。
田畑ウガンダに行けたことで、人間として強くなりましたね。ハエがぶんぶん飛んでるトイレでも平気で用を足さなければいけないし、公共交通機関の車体や運転が日本では考えられないぐらい粗っぽかったり(笑)。

--------今後、こういった支援プログラムを受ける後輩にひとことお願いします。

こういう制度を知らない人もいるので、もっと知名度を上げてほしいですね。そして、なにか成果をあげなければとか思わずに、気楽にチャレンジしてください。
藤田申請のための計画書や事後の報告書などをまとめるといった、研究生活はもちろん社会に出てからも役に立つであろうことを経験できるのは、ほんとに大きいです。
田畑他の大学にはないシステムなので、利用しない手はありません。怠惰な日々を過ごしてポンコツ学生になりかけても、これで復活できますから。
福田学生に立ちはだかる壁が、資本と人脈と社会経験だと思います。おもろチャレンジもSPECも、それらをすべて補ってくれます。「京大のおもろチャレンジに採択されました」っていう看板をいただくと、簡単には会えないはずの人に会えたりしますしね。

--------出発点はどんなものでも、それを形や成果にしていくパワーが京大生にはありますから、相乗効果でますます発展してほしいですね。ありがとうございました。

(開催日:2019年5月)


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