Vol.4 卒業生からのメッセージ

卒業生からのメッセージ 「第10回 京都大学ホームカミングデイ」特別企画

京大生のキャリアは一本道ではない!


2015 年11 月7 日、卒業生が母校に集う「ホームカミングデイ」当日、「京大生のキャリア形成を考える交流イベント」を開催した。 多様な分野のフロンティアで活躍する卒業生を招き、講演とパネルディスカッションを実施。それぞれの卒業生が今に至るどんな道のりを歩んできたかを伝えることで、参加した在学生や卒業まもない若人たちが将来の目標や仕事をイメージし、自らのキャリア観を問い、そして、進む道は決して一本道ではないことを知るきっかけとしてもらうことを狙いとした企画であった。

第1部 講演
人生は「おもしろそう」を追求する旅

人生を「あぁ、おもしろかった」で終わりたい―。
第1部の講演は、その思いを原動力に、つねに新しいことに挑戦し続ける投資ファンド・インテグラル代表取締役パートナーの佐山展生氏が、「今は10年後より10歳若く、可能性も大きい。だからこそ、"おもしろそう" を追求して、楽しい人生を送ろう」というメッセージを発信した。



インテグラル株式会社 代表取締役パートナー
スカイマーク株式会社 代表取締役会長
佐山 展生 さん
SAYAMA NOBUO 1976年京都大学工学部高分子化学科卒業。帝人、三井銀行(現・三井住友銀行)を経て、1998年ユニゾン・キャピタルを共同設立、代表取締役パートナー。2004年M&A アドバイザリー会社のGCA(現・GCA サヴィアン)を共同設立、代表取締役パートナー。2007年インテグラルを共同設立、代表取締役パートナー(現任)。2015年9月よりスカイマーク代表取締役会長就任。
ニューヨーク大学MBA、東京工業大学社会理工学研究科学術博士。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。京都大学経営管理大学院客員教授。


人生は"自作自演"のドラマ
 講師の佐山展生氏は京都大学工学部を卒業後、大手繊維会社の帝人に入社。3交替勤務を経験するなど工場勤務は楽しく、30歳までは模範的なサラリーマンだったという。
 当時は"頑張れば報われる"と考えていた。しかし、30歳の頃に転機を迎える。このまま勤め続けた場合のベストケースは社長就任だが、「社長になるのは100%運」だと気づいたのだ。
 そして、33歳の時に三井銀行(現・三井住友銀行)に転職。面接の時に初めて知ったM&Aを"おもしろそう"と思ったのが決め手だった。実は、佐山氏の行動原理となっているのは人生の終着点で「あぁ、おもしろかった」と思いたい、ということだ。5 年、10 年後の世界は予測不能であり、現在の自分が考えられることはたかが知れている。ならば、今の自分が"おもしろそう"と思うことをとことん追求すべきではないか。佐山氏は給料のことも考えたことがないという。お金は取り戻せても、時間は取り戻せないからだ。
 また、もっとも真剣に考えているのは自分だからこそ、人生の転機を人に相談しないし、転職に際し、家族や会社に対する説明は必要でも、" 説得" はそぐわない、と佐山氏。そもそも説得は不可能なのだから。
 新しい世界に飛び込めば、失敗する可能性も高い。それでも迷わずにチャレンジできたのは、根底に"おもしろそう"という思いがあり、もし失敗しても、どんな仕事でもしながらまた勉強しよう、という気持ちがあったからだ。
 「それに、誰がやってもうまくいくことなら、それは挑戦ではないし、達成感もない。皆が"無理だ"と言うことに、あえてチャレンジする。だから競争相手もいなかったし、これまで生き残ってこれたのでしょう」。
 佐山氏はここで檀上から降り、聴いていた在学生や卒業生たちとの対話を始めた。



在学生:佐山さんにとって"おもしろそう"というのは、どういうことを意味するのですか?
佐山:知らない、予想できない、だから何が起こるかわからない。そのこと自体が楽しいんです。
在学生:失敗したらこうしよう、と想定しているのは、保険をかけていることになり、もう本当に後がない状況と他の選択肢を見据えた状況とでは、パフォーマンスも変わるのではないでしょうか?
佐山:帝人を辞めた時に考えていたのは司法試験の受験で、それはおよそ"保険"とは言えないものでした。「うまくいかなかったらどうしよう」と思ったら集中できないし、失敗する確率のほうが高いことに挑戦しているので、ダメならこうしようくらいの気持ちがあったほうが、かえって真剣に取り組めるのじゃないかと思います。
在学生:「社長になるのは100%運」という話がありましたが、運が良いというのは、それだけチャレンジした回数が多いから運をつかめるということなのでしょうか?
佐山:チャレンジする回数に比例すると思います。成功した人はよく「私はついていた」と言いますが、ラッキーだったから成功したのではありません。周囲から「何をバカなことを」と思われるようなことをたくさんして、失敗もたくさんしている。だからこそラッキーに出会えるんですね。


いくつになっても、今は10年後より
10 歳若くたくさんの可能性がある

 最後に佐山氏は、2つのメッセージを贈った。
 「今当たり前のことはすべて、いずれ当たり前でなくなる。だから、今を大切にして楽しもう」。そして、「いくつになっても、今は10年後よりも確実に10歳若くて、可能性が大きいことを知ろう」。現在の年齢に10歳プラスした世界や自分をイメージしてみると、まるで別世界だ。「もう何歳」と思うのは、過去と比べているからであり、それゆえ「あれをやっておけばよかった」と思うことになる。でも、10年後にはできなくても、今ならできることがたくさんある。それはいくつになっても同じ。それを考えれば、キャリアプランよりも、おもしろいことを追求すべきという気持ちがわかるのではないか、と佐山氏は言う。
 「京都大学は、誰もしたことのないことに挑戦しようとする人たちがそろっている特別な大学。皆さんも"おもしろい"を追求して、楽しい人生を」と締めくくった。

第2部 パネルディスカッション
京大生キャリア「連続」と「不連続」

第2部はボストンコンサルティンググループ日本代表(当時)の御立尚資氏をファシリテーターに、5人の卒業生を迎えたパネルディスカッションを開催。「これを勉強したことが後々生きた、思いがけない縁が将来につながった、ということは往々にしてあるもの。それを知るためにも、いろいろな人生やキャリアがあることを感じてもらいたいと思います」。 御立氏の挨拶から始まり、3つテーマでそれぞれお話を伺った。

【伺った3つの話】
1 今のキャリアに至る連続と不連続
2 その後のプラスになった京大での学び
3 「これはやるべき」「これをやって良かった」 ―京大生に贈る言葉


●ファシリテーター●
御立 尚資さん
ボストンコンサルティンググループ
シニア・パートナー&マネージング・ディレクター

MITACHI TAKASHI  1979年京都大学文学部卒業。日本航空を経てボストンコンサルティンググループに入社。2005年日本代表、2016年シニア・パートナー&マネージング・ディレクター。ハーバード大学MBA。経済同友会副代表幹事、同 観光立国委員会委員長、国連世界食糧計画WFP 協会理事、京都大学経営管理大学院客員教授。

【総評】

 刻々と変わる世の中、想定と違うことに出合ってもそこから何かをつかみ、その時々に自分にとっての意味を見つけていける。なすべきことのオプションを広くとらえる。本来のキャリア教育はそういうことを伝えていくべきだと思っています。
 その点、今日のパネリストの方々はオプションが広い方ばかり。キャリアは一本道じゃないし、連続も不連続もある。皆さん、それを楽しく受け入れ、豊かな人生を送っておられます。いろいろな選択肢があると知っていることが、大きな力となります。人の真似をせず、自分でキャリアをつくっていくことで、もっとおもしろい、自分だけの人生を送れるのではないでしょうか。今日の皆さんのお話が、少しでも参考になればと願っています。
 最後に。京大は卒業生の組織化をしていませんでしたが、ここ数年で変わってきました。けれど、実利目当てに世界中にネットワークをはり、密接に群れる大学ではない。適度な距離感で仲良くすればいいと思っています。


●パネリスト●
岡本 球夫さん
パナソニック株式会社 生産技術本部生産技術開発センター 新規事業推進室開発一課 課長(兼任)
パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社新規事業推進室 新規事業推進部 生活支援ロボット課 課長

OKAMOTO TAMAO 1995年京都大学大学院工学研究科修了、松下電器産業(現・パナソニック)入社。自律移動ロボットの事業化に従事。ロボットビジネス推進協議会幹事(安全規格検討部会副部会長)、名古屋大学工学研究科博士(工学)。

1 大学でロボット工学を専攻していたものの、ものづくりの現場志向でした。入社当初は設備開発などを担当していました。そのうちに人型ロボットが登場して、私に白羽の矢が立ちました。人の中で動く生活支援ロボットは安全性が重要だということで、国のプロジェクトに参加し、安全規格の策定にも携わるようになりました。ロボットは昔の縁が復活したわけで、回り道はありましたが、結果として、大学での学びが今に生きています。業務は開発から規格づくり、海外との折衝など広がっていますが。
2 昔、社長が「スーパー正直になれ」と言いました。スーパー正直は単なる馬鹿正直ではなく、お客様のことを考え、自らの思いを伝えつつ、約束は守る。その点、京大の自由の学風や反骨精神の中で、相手の言いなりではなく、正しいと思うことを伝え、有言実行する強さが培われたかもしれません。
3 旅に出て、その土地の人々の暮らしぶりや考え方に触れてみてください。仕事での交渉の際、相手の考え方を理解せず、自分の意見を主張するだけではうまくいきません。いろいろな考え方を通して自分の考えを見つめ直し、相手を受け入れるためにも、旅は有効だと思います。



●パネリスト●
木下 智夫さん
野村證券株式会社
金融経済研究所 チーフエコノミスト

KINOSHITA TOMOO 1987年京都大学経済学部卒業、野村総合研究所(NRI)入社。NRIワシントン、NRIシンガポール、野村シンガポール、野村國際(香港)などアジア経済の調査活動に従事。2004年に野村證券へ転籍。 2005年アジア・チーフ・エコノミスト、2012年より現職。ノースウェスタン大学経済学修士。

1 経済の勉強が好きでしたから、連続性は高いですね。23 歳から30 歳までアメリカに赴任して、帰国後は当然アメリカの担当になると思っていたら、アジアの担当になりました。それが転機でした。アジアは実にダイナミックで、おもしろかった。1 年後にアメリカ担当の打診がありましたが、そのままアジアを希望しました。仕事の連続性はありますが、楽しさは変わってきましたね。エコノミストを目指すには、修士号が必要だと考え、アメリカの大学を受験。会社も休職を認めてくれて、留学しました。
2 自由というのは、時間の使い方も自分の裁量次第。私自身は、哲学書などを読み、物事を深く考える習慣が身につきました。来年の世界経済を考察するにも、さまざまな要素を幅広い視野で捉え、ロジカルに考えなくてはなりませんが、その思考プロセスには大学での習慣が役立っています。
3 英語だけでなく、中国語も勉強することをお勧めします。中国の経済規模は今後も拡大の見込みですから、エコノミストにとって、中国語が話せるともっと世界は広がるはずです。



●パネリスト●
辻 庸介さん
株式会社マネーフォワード
代表取締役社長CEO

TSUJI YOSUKE 2001年京都大学農学部卒業、ソニー入社。入社3年後に社内公募によりマネックス証券株式会社へ。2012年株式会社マネーフォワード設立。個人向けの資産・家計管理サービスおよび中小企業向けのクラウドサービスを提供。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA。一般社団法人新経済連盟幹事。

1 入学してから研究者向きじゃないと気づき、先輩が立ち上げた学習塾を手伝ううちに、ビジネスっておもしろいと思うようになりました。それで、ミーハーな感じで、国際的に通用するビジネスパーソンを目指そう、それにはソニーだろうと考えて、まずは大学を1年間休学して、アメリカにMBA の勉強をしに行ってから入社しました。
2 いきなり自由になって時間の使い方にとまどいましたが、私の大学生活は、テニスと鴨川での読書三昧でした。「人間とは何か」なんて考えて哲学書を読んだり。悩んでいる自分が楽しかった。自分を見つめることができたのは大きかったですね。
3 私自身はできませんでしたが、インターンシップを経験してください。大企業は競争が激しく、能力だけでなく運も必要になる。逆に、ベンチャー企業だとチャンスは多い。どちらも経験しておくと、自分の適性がわかると思います。最後に、私の会社の採用についての考えを。求めるのは「明るく元気で体力がある人」。金融の課題をテクノロジーで解決するというビジョンに共鳴できる人であれば、うまくいくと考えています。



●パネリスト●
野崎 治子さん
株式会社堀場製作所 理事 管理本部CSR担当
HORIBA COLLAGE 学長

NOZAKI HARUKO 1978年京都大学薬学部製薬化学科卒業、堀場製作所の福利厚生子会社に入社。1980年堀場製作所に転籍。2001年人事教育部長、2008年管理本部人事担当副本部長、2014年同社初の女性執行役員に就任し、現在に至る。在学中はアメリカンフットボール部に所属。

1 薬学部で、理科の点数がいいのと研究は違うことに気づきました。挫折して文系就職を試みたものの女性の就職は難しく、アメフト部の縁故で就職が決まりました。入社3 日目、仕事がおもしろくない、通勤が遠い、辞めたいと上司に訴えたら、「今日は何して遊ぼうと思いながら会社に来なさい」と堀場らしいアドバイスをもらいました。それを真に受けて仕事を続けるうちに、人事制度づくりや改革で社員の笑顔が増えることがうれしくなり、気がついたら役員になっていました。
2 アメフト部の監督から「女子マネージャーには、部員のユニフォームを洗濯するよりも、部員自身に洗濯させるための段取りを期待する」と言われました。仕事に真剣に向き合うようになった入社20年目頃から、環境を整えて頑張る人を応援することが自分の使命だと意識するようになりました。
3 恋をしましょう。感動やときめきは大事です。恋愛を通してする理不尽な体験、つらい、悲しいという思いは哲学の始まりです。豊かな感情、感性を育んでください。



●パネリスト●
春田 真さん
株式会社ベータカタリスト
代表取締役CEO

HARUTA MAKOTO  1992年京都大学法学部卒業、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。2000年2月株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、同年9月に取締役、2008年7月常務取締役、2011年6月取締役会長に就任。DeNAの上場を主導するとともに横浜DeNAベイスターズの買収等M&Aを推進。2015年4月株式会社ベータカタリスト設立。

1 私も佐山さんと同じで、おもしろそうと思うことを選んできました。大学時代はバブル景気真っ只中でキャリアのことは考えたことがなく、なんとなく銀行に勤めて、縁があって転職することになりました。ネットビジネスが興り、新しいことをしたかったんです。2015 年に起業したのは、情熱ある人たちが自分のビジネスを生み出せるプラットフォームをつくりたい、との思いからです。起業も1 つの選択肢で、いろいろなキャリアがあることを知ってもらい、多くの社長を輩出したいと考えています。京大生も能力が高くて、その気になればほかの人よりもできるはずで、結局はどのオプションを選ぶかということです。
2 特にないんです。環境のせいにしてはいけませんが、浮かれ遊んでいて、大学にほとんど行っていなかった。大学時代や恩師の思い出を聞かれると困ってしまって。でも、ゼミの飲み会は楽しみで、ゼミには出席していましたね。
3 大学時代は世界中を旅し、会社で働き、多くの人に出会って、好奇心が刺激されました。好き放題してきたので、後悔も未練もないのですが、ここ数年、英語を勉強しておけばよかったと思うようになりました。





 講演会・パネルディスカッション終了後に懇親会が開催されました。講演者やパネリストたちを囲み、卒業生や在学生たちが和やかに懇談。参加者からも、次のような声が聞かれました。
「自分の"おもしろい"を追求すれば、自分だけの道ができるんだと、期待が持てました」(女子学生・経済学部3年)
「何かのスキルを身につけることが1つのゴールだと思っていましたが、そのスキルをどう活用するかが大事だと気づきました」(男子学生・農学部4年)
「京大生は人類に貢献できるような仕事をすべき。そのためにも、大きなチャレンジをしてほしい」(修了生)
「学生の頃はキャリアなんて考えていなかったので、在学時にこういうイベントがあればよかった。これからはOBとして、自らの経験を下に伝えていきたい」(卒業生)
 最後は、大学基金担当の徳賀副学長より「同窓生の多くは"京大生は群れない"と言う。御立さんがおっしゃったように"適度な距離"やほどよい規模で、"群れない"という価値観も維持しつつ、交流していきたい」と挨拶があり、イベントは幕を閉じました。

(開催日:2015年11月)