Vol.5 奨学生インタビュー

社会実装というゴールをめざして

 ノーベル賞受賞者をはじめレジェンドの科学者を数多く送り出している京都大学に憧れを抱いていました。京都大学は"わが道を行く"印象があって、それも魅力的でしたが、実際に入学して出会う人たちは個性ある人ばかりでした。
 生物学に興味があって理学部を受験したのですが、3回失敗し、4回目は農学部に変更して無事に合格。応用生命科学科に入ることができました。
 生物学の中でも合成生物学をやりたいと思っていたので、非常に幅広い領域を学ぶことができる同学科を選んだことは正解でした。

 3浪をしたことも農学部に変更したことも、結果としては良かったと思います。同期や担任に恵まれ今の研究テーマに出会えたのも、そのタイミング、その学部だからこそ。すべては巡り合わせだったと思います。
 博士課程に進む時、指導担当の助教の先生が他大学に移籍することになり、京都大学に在籍しながら指導委託の形でその先生のもと研究を続けています。
 研究テーマは「リボソームの試験管内合成技術の開発」。リボソームは、細胞に存在する生体タンパク質を合成する分子機械です。DNAの遺伝情報はRNAに転写され翻訳という過程を経てタンパク質が合成されるのですが、この翻訳で重要な働きをするのがリボソームです。


 私たちはこのリボソームが生体内で合成されるプロセスを試験管内で再構成することに成功しています。つまり人工リボソームを自在かつ簡単に創出できるということ。この技術を応用すれば、リボソーム遺伝子に変異を導入して任意の人工リボソームを構築することが可能です。そして、リボソームの機能を自在に変えることで、自然界にはない特殊なタンパク質をつくり出すことができます。そうした非天然のタンパク質に膜透過性や体内動態に優れた機能を持たせれば、次世代医薬の創出につながるわけです。

 DDD(※)の奨学金を支給いただき、経済的な不安から離れて研究に専念できています。おかげでこれまでの成果をさまざまな場で発表することができ、いくつかの国内学会で賞をいただくことができました。
 奨学金に応募しようか迷ったり、どうせ受からないと思っている学生も多いと思いますが、まずはエントリーすることをお勧めします。いつ何があるかわからないからこそ、日ごろから情報をチェックして、わからなければ問い合わせする。基本的なことですが、大切なことです。


 将来、企業などに就職する意思がないわけではありませんが、リボソームの再構成という大きな難関を乗り越えたばかりです。次のフェーズに進めるためには、もうしばらくアカデミアで研究を続けたいですね。
 研究が創薬などに応用されるにはまだ10年ほどかかると思います。応用段階になればベンチャーを立ち上げることも必要になるでしょう。自分自身がどういうポジションになるかわかりませんが、状況に応じて研究に関わっていきたいと思っています。


(※)DDDとは
大学院教育支援機構 企業寄付奨学金制度
DDD(Division of Graduate Studies Donor Designated Scholarship)
本学卒業生や修了生が活躍する企業からの寄付による、極めて優秀な本学大学院生を対象とした給付奨学金です。
経済支援を行い研究活動を奨励するとともに、民間企業と積極的に交流を行い、研究インターンシップを含む産学協同教育の発展、大学院生のキャリアプランの具体化、業界理解の促進を実現することをめざします。

(取材日:2024年1月)