Vol.6 奨学生インタビュー

2012年立命館大学文学部卒業、2016年同大学大学院文学研究科 博士課程前期(修士) 修了。2020年京都大学大学院文学研究科博士後期課程退学。学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校京都キャンパス長、学校法人みずほ学園瑞穂MSC高等学校神戸校施設長などに従事。2024年より京都大学経営管理大学院経営管理専攻に在籍。

社会にコミットする哲学をめざして

 大学院在学中に出家得度をしていますが、きっかけは西田幾多郎との出会いです。学部時代、人間関係の悩みから思想分野の本を読みあさっていた時に出会い、論理の説得力と言葉の迫力に惹かれました。西田が禅の修行に打ち込んだことを知って坐禅を始め、禅寺に通うように。修士課程の時、老師の勧めもあって出家得度し、修行に励んだという経緯です。
 もとより僧侶になるつもりはなく、人間関係という現実的な悩みから始まっているので、リアルに生き方が変わるような考えや言葉に触れたくて、哲学の道へ。博士課程は京都大学文学研究科の日本哲学史専修に進みました。でも、違和感がぬぐえずに休学。坐禅会の開催や自費出版本の販売など自分なりに発信する中で、アカデミアの中ではなくもっと社会にコミットして、生活や仕事に役立つ哲学がしたい、という思いが明確になりました。その思いと退学の意思を伝えたところ、先生は「研究室から多様な人材が生まれることが理想だから」と快く送り出してくれました。感謝しかありません。

 その後、今までの経験が活かせる仕事を求めて携わった学校づくリを通して、初めて「哲学を仕事にできる」という感覚を得たのす。学校づくりにしろ経営にしろ、こんな社会や組織をつくるためにこんな人を育てる、と理念を具体化・体系化していく作業が必要です。これは、人生や世界を論理的かつ体系的に追究する哲学的思考そのもの。そこで、もっと汎用的な哲学の社会貢献の可能性を探ろうと、京都大学経営管理大学院への入学を決めました。入学してすぐDDD(※)への応募書類を作成したのですが、哲学による社会貢献という自分の目標を具体的に言語化するのは大変でした。奨学生に採用いただき、自分がやろうとしていることを、それでいいと後押ししてもらえたようで、大きな励みとなりました。
 実際この1年間、「哲学コミュニケーター」という肩書でワークショップなどを開催してきましたが可能性は十分にあると手ごたえを感じています。私の活動をおもしろいと言ってくれる人がいて、いろいろな人につながっていく。この最高の環境も京都大学ならでは。


友人と一緒に開催していた坐禅会にて

 私がめざすのは哲学の民主化・実学化・エンタメ化です。シンプルに「哲学っておもしろい!」と思ってもらうことで、万人に哲学を身近なものにし、生活や人間関係にリアルに役立つものにしたいと考えています。あリがたいことに、京都大学をはじめいくつかからお声がけをいただいておリ、大学などとも連携しながら今の延長線上でスケールする方法を探っていきます。

 最後に、学生の皆さんには大学のリソースと学生の特権を存分に活用してください、とお伝えしたい。私はポータルサイトなどを隈なくチェックして、DODのことも知りました。大学のリソースを甘く見てはいけません(笑)。


経営管理大学院の授業に子どもと一緒に参加

(※)DDDとは
大学院教育支援機構 企業寄付奨学金制度
DDD(Division of Graduate Studies Donor Designated Scholarship)
本学卒業生や修了生が活躍する企業からの寄付による、極めて優秀な本学大学院生を対象とした給付奨学金です。
経済支援を行い研究活動を奨励するとともに、民間企業と積極的に交流を行い、研究インターンシップを含む産学協同教育の発展、大学院生のキャリアプランの具体化、業界理解の促進を実現することをめざします。

(取材日:2025年1月)