世界初!骨標本に「吐き戻し」という新カテゴリーを

申請団体:Paleontology Superheroines
代表者:理学研究科修士1回生 瀬岡 理子


サメの「嘔吐物」の標本化に世界で初めて挑む!
骨標本に新しいカテゴリーを加え、京大を一大標本拠点へ

 例えば海岸で。または海底で。はたまた何千万年も昔の地層から化石として。フィールドに出ると生物の「一片の骨」を手にすることがあります。
 そこで私たちは彼らの生きざまに思いを馳せます。この生物はどんな形で、どういうふうに海中を泳ぎ回り、何と戦って、何を食べて、どう死んでいったのか?

 たとえ一片の骨からでも、多くのことを知ることができます。
 詳細に観察すればどの生物のどの部位の骨なのかが推定できます。骨の表面を顕微鏡スケールで観察すれば、腐敗・消化・摩耗・溶解など、死後の骨に生じる変化(変形)の痕跡を見いだすことができます。
 一片の骨からでも、その生物の死にざまや、死後どんな環境にあったかを考察できるのです。

 ところが、これらの観察技術は、行動学研究の進展と歩調が同じであるとは言えません。実際に行動としてとらえられていても、従来の観察結果では説明できない事象がまだ多く存在します。その一つが「吐き戻し」です。

代表者:理学研究科修士1回生 瀬岡 理子


メンバー:理学研究科博士後期課程1回生 シアーズオオゼキ クリスティーナ

 人間にとって吐くという行為は苦しいものですが、近年の行動学研究によって、サメをはじめとするいくつかの生物では、日常的に吐き戻しが行われていることがわかってきました。しかし、これが「吐き戻された骨である」と断定できる観察指標がないのが現状です。

 そこで私たちは、この吐き戻しの行動と吐き戻された実物をとらえ、標本化し、その骨の変化・変形現象を世界に先駆けて明らかにしたうえで、吐き戻されたものかどうか決定づけるための指標をつくりたいと考えています。
 この指標ができれば、従来の観察ではカテゴライズの難しかった骨標本の定義を明確にし、一片の骨からその生物を「生態系の中で位置づける」ことが可能となります。 今回の取り組みは、私たちが専攻する「古生物学」を、「行動生態学」とリンクさせる新たな試みでもあり、絶滅した生物の生きざまに迫ることにもなるはずです。

 京都大学には「骨」の充実したコレクションと研究の伝統があり、近年は京都大学独自の標本作成技術による「糞」の標本を多種加えています。  本取り組みによって、これらの骨標本に「吐き出されたもの」という新たなカテゴリーを加えることができれば、京都大学は標本の一大拠点へと成長することになります。





 【具体的な計画】
・水族館における飼育個体の観察
大型生物を捕食するサメ、深海性のサメなど多様なサメを飼育する水族館に赴き、サメごとの摂餌形態、吐き戻しの有無を行動観察します。吐き戻しの要因として考えられる、胃酸で消化しきれない骨や大きな塊の排除、寄生虫の駆除、ストレス応答についても、与える餌生物の違いや外部からの物理的な刺激によって検証を行います。

・吐き戻しを行うサメの解剖
吐き戻しを行うとされる種とその近縁種、そうでない種の形態学的な比較を行います。

・吐き戻された骨の観察と、自然環境で回収された標本・化石との比較
顕微鏡観察によって吐き戻された骨の特徴を特定します。標本・化石との比較は標本の切片の作成や骨表面の観察によって行い、必要であればCT撮影を行います。

・研究成果の普及活動
各水族館での研究報告会、各学会でのポスター発表だけでなく、博物館の企画展示やワークショップ等にもつなげていきたいと考えています。 また、水族館と大学研究機関との連携を図ることを目的に京都大学野生動物研究センターが開催している「水族館大学シンポジウム」等でも、研究内容について積極的に還元していく予定です。