山極総長による寸評

①「命を救え!」~行動に移せる勇気を小学生に

非常にすばらしい視点での取り組みだが、1点注文したいのは、一次救命処置の技術を身につけるということだけでなく、人が倒れるさまざまなシチュエーションを盛り込んだ競技にしてはどうかということだ。 以前、土俵で市長が倒れて女性救命士が心臓マッサージを行って助かったことがあった。女性は土俵から降りるようにとのアナウンスが流れて問題にもなったが、迅速な行動こそが救命に役立つという常識が全国に広がった事例でもあった。そうした想定されるシチュエーションを盛り込むことで、子どもたちもさまざまな気づきを得、自ら考えるきっかけになるのではないか。

②世界初!骨標本に「吐き戻し」という新カテゴリーを

胃内容物と糞内容物は違うという前提で「吐き戻し」をとらえることが重要だ。消化という行為は動物本体だけでできるのではなく、腸内細菌などの力を借りて行うものであり、その消化のプロセスによって骨標本にも違いが出るだろう。また、現代のサメと古代のサメとでは、進化の過程で消化方法が変わっている可能性もある。 サルでも胃に腸内細菌をためて消化するグループと、胃にはほとんど腸内細菌がいなくて腸で消化するグループとがある。現在と古代の分類や機能の違いをよくわきまえて取り組んでいただきたい。

③風を見つけて高く遠くへ~トンビの飛行法を模倣した
  ドローンの長距離飛行の挑戦

おもしろい視点だが、これからの時代は“鳥”だけではないと思う。単にドローンの飛行時間を延ばすだけなら、蓄電や送電技術の改良によって可能だろう。しかし、ドローンの特殊性というのは、停止することも含めて微細な動きができること。この特徴をさらに活かす方法を考えたほうが、ドローンの用途は広がるだろう。そこで真似るべきは“虫”だ。鳥と虫では飛行技術が違うが、鳥をモデルに今のドローンの欠陥を補完することと、虫をモデルにドローンの利点を生かすこと、両方の視点で考えてみてほしい。

④聴覚障がい者が楽しめるバリアフリー寄席の開催

共感照明で周囲が笑っているタイミングを演出するのはおもしろいアイデアだ。 字幕は今や健常者にもなじみがあるもので、我々は言葉として聞かなくても、文字として見ることでも笑える感覚を文化の中で共有している。字幕の可能性は国内にとどまらない。障がいはもはや個性の一つであると言われており、障がい者だけに通用する特別な工夫をするのではなく、健常者も海外の人も一緒に、同時に笑えることを最終的な目標にしていただきたい。また、障がい者の目耳手足となってアクセスビリティを向上させるようなテクノロジーが発達している今、そうした最新の科学技術の活用も視野に入れるべきだろう。