国際社会で活躍できる人材の心理学的研究:関係志向性の機能に着目して

申請者:人間・環境学研究科博士後期課程2回生 中尾 元

生まれ育った文化以外のところでも適応的に活躍できる能力とは?
異文化トレーニングに役立つ、実践的知見の獲得を目指す

 物事が地球規模で影響し合い、さまざまな分野で多元化が進む現在、「自らとは異なる基準や、文化背景を持った人と信頼関係を築くことができる能力」はますます重要になってきています。留学生が渡航先で対人関係を築く能力、海外市場展開を進める企業人が現地の人々との信頼関係を結ぶ能力など、さまざまなケースが考えられます。国際協力機関などは、こうした能力の育成のためにさまざまな教育実践を行っています。それに対し、本プロジェクトでは、心理学(社会心理学・文化心理学)の立場から、この能力の実証的な検討を行うことを目的としています。
 従来、心理学の分野では前述のような資質は「異文化間能力(Intercultural competence)」と呼ばれ、この能力には「関係志向性」が関わっていることが明らかにされてきました。しかし、これまでの綿密な事例的研究や質的研究に基づいて、関係志向性の機能についてさらに実証的な検討をしていくことが課題として残されています。
 ここでの「関係志向性」とは、①行動の手がかりと評価の明示(現象ベース)、②相互関係の改善(対人ベース)、の2つで定義されます(cf.Ruben,1989;Watanabe,2005)。

 これまでの研究で残された課題に取り組むべく、本プロジェクトでは異文化間能力の高さと関係志向性の強さとの関連を実証的に検討することを目的としています。測定ツールとして、質問紙(測定ツール1)と行動指標(測定ツール2)を活用します。行動指標については、異文化を模擬体験するカードゲームを通して「少数派」「前提の違い」「多様性の状態」を体感し、質問紙調査では測定しきれない、異文化接触の際の行動パターンを測定します。
 第一段階として、日本人大学生を対象とした調査はすでに終了しており、本プロジェクトでは海外調査を展開したいと考えています。すでにアメリカ、ドイツの大学から調査協力の承諾をいただいています。
 本取り組みが遂行されることで、異文化トレーニングや実践など、国際社会で活躍できる人材の育成にも貢献できる知見が得られると予想でき、調査終了後は、論文発表などにより社会へのアウトプットを行っていきます。